10.成長
退院した俺は、北草加警察署に異動し、社宅を借りて住んでいた。
聡美とその彼女が産んだ赤ちゃんが同居人だ。
「父親になった実感がないよ。俺今まで複数の女性と関係を持ったけど子どもができなかったから」
「ねえ、バカなの? あなた卵巣と子宮があるんでしょ?」
「あるよ?」
「あなたの卵子から産まれた子よ?」
「つまり俺の卵子が聡美の体内で赤ちゃんになって産んだってことでしょ?」
「あのね……あなたが産んだのよ?」
「何言ってんだよ。俺は男だぞ。出産は女の子がするものだろ」
「地球の感覚ではそうね。でも私たちはゾンビ星人よ。ゾンビ星では逆なのよ」
「え?」
「地球でいうところの女の子が精子を男の子に送り込んで男の子が出産する。それがゾンビ星では当たり前なの」
「え、本当に俺が産んだの?」
「そうだって言ってるじゃん」
なるほど、やっと理解できた。
ゾンビ星と地球とでは男女の身体構造が逆になってるんだ。
「うん? ということは、俺が法律上の母親?」
「知らない。そうなんじゃない?」
それより、と聡美が続ける。
「お腹空いてるから肉探してきて」
「はい」
俺は聡美に頼まれ、肉を探しに外で出た。
現在の草加市は、ゾンビの姿がちらほらと出てきている。
HUNTER-ZOMBIEである。
ソンビ星人として敵対している俺は、問答無用で無限弾倉拳銃で頭部を吹っ飛ばす。
まだゾンビ化していない人間を探し、見つけ次第連れ帰って聡美に献上する。
それが俺の日課になっていた。
そして連れ帰った人間は、聡美が食いちぎって傷物にし、感染させてハンターとの戦いのためにゾンビ化している。
ゾンビになった人間は街に放たれ、他の人間たちをも食いちぎり、感染を広げていく。
今では、北草加警察署の機能は失われている。
警察署は、ゾンビの拠点となっており、彼らは聡美の意思で行動し、他市から調査のためにやってきた警察官でさえ、感染して彼女の傀儡と化す。
同僚の牧田もまた、同様に傀儡を増やしている。
俺は警察署の署長室に行く。
椅子に牧田が座っている。
「すっかり署長してんなあ」
牧田はこの部屋からゾンビどもを使役して街の人間たちを襲っていた。
「斉藤警部補、何か用ですか?」
「この草加市、そろそろ人間が絶滅しそうだ」
「そしたら隣町に侵攻すればいいんじゃないですか?」
「それもそうか」
「センスのない駄洒落ですね」
「うるさいな」
「隣町は警部補が掌握してください」
「それは全然構わんが」
「くれぐれもハンターには注意を」
「ああ」
俺は隣町へ向かうため、人のいないゴーストタウンを歩く。
と、UV-ZOMBIEから逃げてくる人間に会う。
「お巡りさん、助けてください!」
「どうしたんですか?」
「ゾンビに襲われて!」
「そうですか」
食欲をそそられた俺は、目の前の人間に齧り付いた。
初めての人肉。
新鮮な人肉は美味しかった。
「ぎゃああああ!」
悲鳴を上げながら、人間は血だらけになっていく。
やがてそいつは意識を失い、俺の傀儡と化した。
初めての傀儡だ。
本当に考えただけで動く。
俺が右手を挙げろと念じればその通りに動く。
なんだか王様にでもなった気分だった。
俺はゾンビを置き去りに三郷市へと移動した。
三郷市への入り口は草加市の陥落を受けてバリケードで封鎖されている。
俺はバリケードに拳銃の弾を撃ち込む。
バリケードは数発で破壊され入り口が解放された。
向こう側には警備中の警察官。
「なに!?」
バリケードが壊れたことに驚いている。
「誰の仕業だ!?」
警察官が俺を見る。
俺は手帳を提示した。
「緊急だから破壊した」
敬礼する警察官。
俺は警察官の足を銃撃。
「ぐわ!」
動きを封じて噛みつき、食いちぎって傀儡化する。
騒ぎを聞きつけた別の警察官たちが駆けつけてくる。
どうやら銃撃の瞬間にSOS信号が送られたらしい。
「動くな!」
俺はゆっくりと警察官たちに迫る。
「撃て!」
警察官の指示で仲間の警察官たちが構えていた銃の引き金を引く。
俺は迫り来る無数の弾丸をかわし、奴らの懐へと接近する。
「早いぞこいつ!」
一人、また一人と、順番に噛みちぎる。
「なんだこいつ、化け物め!」
放たれた弾丸を、傀儡化した警察官を盾にして止める。
「うー!」
傀儡で残りの警察官たちを襲う。
「うわああああ!」
「ぎゃああああ!」
彼らも感染し、俺の操り人形となった。
「さて……」
俺は近くに止まっているエンジンのかかったパトカーに乗り、三郷西警察署へ走った。
俺は警察署内に入り、内部の人間を単独になった瞬間を狙って一人ずつ襲う。
そうして、署内の全職員をゾンビ化した。
その夕方、俺は草加の家へと戻った。
かき集めた大量の人肉を大きめの冷蔵庫にびっしりと詰め込む。
これでしばらくは持ちそうだ。
そこへ、二本足で歩く女の子が現れる。
「誰?」
「誰って、娘の翔子よ」
いや、翔子と名付けた娘は赤ちゃんのはずだ。
聡美に事情を聞くと、ゾンビ星人は肉食系戦闘種族で、成長速度が異常に早いらしい。
そう言えば、俺も数日で大人並の身長になってたっけ。
「大きくなったな、翔子」
俺は翔子の頭を撫でる。
その向こう側で、聡美が玄関の方へ歩いていく。
「どこ行くんだ?」
「お風呂よ。一緒に入る?」
聡美と混浴。
考えただけで興奮してきた。
「聡美がよければ」
「ダメに決まってるじゃない」
残念。
「お父さん、落ち込まないで。お母さん出たら私と一緒に入ろう?」
「翔子」
俺は翔子を抱きしめる。
「お前はなんていい子なんだ」
俺は翔子と混浴するため、聡美が風呂を空けるのを待つのだった。




