7.倉田の報告
俺は外事課のパソコンでデータベースを調べる。
倉田が捜査したUV-ZOMBIEに関するデータを抽出して読み漁る。
その中に、俺の名が上がっていた。
俺の出自に関するデータだ。
俺の身体構造に疑問を抱いた倉田が、秘密裏に俺のDNAを採取し、科捜研で分析していたのだ。
それによると、俺のDNAは地球のものとはかなりかけ離れていた。
いくら俺が性交渉をしたところで、女性との間に子どもを持つことはできないのだ。
俺は複数の女性に好意を抱いて関係を持ったが、子どもができないのを理由にそれぞれ振られて別れている。
俺は病院で診察を受け、自分の体を調べた。
精巣がなかったのだ。
俺はショックを受けた。
子どもができないのは俺に原因があったのだ。
その代わりに、卵巣と子宮が発達していた。
確かに、今までの日常を振り返ると、女性特有の生理痛を発症する時期が度々起こっていた。
だが、俺は今でも、それが普通の出来事なのではないかと疑っていない。
「警部補?」
と、牧田がやってきた。
「いったい、何を調べているんですか」
表情は穏やかだったが、その目は真剣そのものだった。
「いや、なんでもない」
俺はデータを閉じた。
「それより聡美はどうした?」
「仮眠室で寝てますよ。ずっと起きっ放しだったから、疲れたみたいです」
「うっ……!」
突然、激しい吐き気が込み上げてきた。
「大丈夫ですか?」
俺は男子トイレに駆け込む。
便器にしがみつき、口から吐瀉物をぶちまけた。
なんだこれは……。
俺の身に、一体何が起こっている。
まさか、俺もUV-ZOMBIEに感染したとでもいうのか。
少し落ち着いたところで、俺は総合病院へ行くことにした。
病院の受付で体の不調を訴え、内科医の診察を受ける。
「あのゾンビタウンから逃げ延びたのですか。そして、激しい吐き気、と?」
「はい。タイミング的に感染してしまったのではないかと思いまして」
「それでは採血してみましょう。結果はすぐに出るので、発見すればワクチンを打ちます」
「ありがとうございます」
俺は採血のため、待合で待機した。
「斉藤 健さん」
と、看護師が採血室へ呼ぶ。
俺は採血室に行き、針で血を抜いてもらう。
看護師が傷口にバンドエイドを貼る。
「待合でお待ちくださいね」
俺は待合に戻り、呼び出しを受けて再度診察室に入った。
「斉藤さん、UV-ZOMBIEは陰性でした。ですが……」
「どこか悪いんですか?」
「血液中にhCGの反応が見られました」
「hCGって?」
「ヒト絨毛性ゴナドトロピンのことです。妊娠時に出るホルモンなんですが……あなたは男性ですよね?」
「ええ。けど、別の病院で卵巣と子宮が発達していると言われたことがあります」
「卵巣と子宮が……?」
医師はカルテを見ながら眉をひそめた。
「そうなると、性分化疾患の可能性も考えられますね」
いわゆる両性具有のことだ。
「もう少し検査してみましょう」
俺はさらに検査するため、なぜか産婦人科へと通された。
なぜ内科ではなく、産婦人科なのか、俺には理解ができなかった。
産婦人科の待合で一人でいると、周囲の女性たちが珍しいものを見るような目で俺を見ていた。
時折、「なんで男性が?」などと聞こえてくる。
俺は思わず顔を伏せた。
恥ずかしかった。
早く名前を呼んでくれ。
そう願わずにはいられなかった。
「斉藤 健さん」
ようやく呼ばれた。
診察室に入る。
女医も俺を見て、不思議に思っていた。
「えっと、内科医から検査の依頼が入ってますが……」
「はい」
「あなたは、男性ですよね?」
「だと思います」
正直、自分の性別がわからなくなっていた。
「とりあえず、エコー検査してみましょう」
それで何がわかるというのだろうか。
「俺、なんかの病気なんでしょうか?」
「ええ!? い、いや……それはなんとも言えません!」
女医は引き攣った表情で答える。
「と、とりあえず検査しましょう」
女医は慌てていた。
「ベッドに寝てもらえますか」
「はい」
言われて俺はベッドに横になる。
お腹をエコー検査で確認する女医。
「……!?」
驚く女医。
「先生?」
不安が襲ってきた。
「あ……えっと、どこも悪くはないですよ」
「じゃあなんでひどい吐き気を感じたんでしょうか?」
「異常な症状ではありませんよ。誰にでも起こりうる、ごく普通の反応です」
「UV-ZOMBIEじゃないんですか?」
「違いますね。他のウィルスや細菌も無関係です」
じゃあなんなんだろう。
「今の段階では、特に治療の必要はありません。経過を見ましょう。もし今後、お腹が張ってきたり、体型に変化が現れたら、もう一度受診してください」
お腹が張る?
なんの話だ。
俺は腹に腫瘍でも抱えているというのか。
それとも、UV-ZOMBIEの未知の症状なのか。
診察を終えた俺は、受付で会計を済ませて北草加警察署に戻る。
仮眠室では、聡美が気持ちよさそうに眠っている。
「ん?」
俺は思わず目を疑った。
彼女の怪我が治っていたのだ。
いや、治りかけていたなどという話ではない。
生物としては異常なほど早かった。




