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6.倉田の日記

 警察署から続く地下下水道入口。

 俺は聡美と牧田に再会した。

 ここまで来る間、ゾンビの姿は見ていない。

「無事に来れたんですね」

「ああ。不思議なことにゾンビに会わなかった」

 それよりも、と俺は続ける。

「牧田、ワクチン打っておけ」

 俺はアンプルを取り出した。

 先端に針がついている。

 アンプルを取り上げようとする牧田。

「あっ!」

 手を滑らし、アンプルが落ちて割れてしまう。

「アンプルが割れたああああ!」

 俺は叫び声を上げた。

「ごめんなさい、斉藤警部補。一つしかないアンプルを割ってしまい」

「なんてことしてくれたんだお前え!?」

「……ごめんなさい」

 致し方ない。

 感染を抑えられないならこのまま脱出して市外で治療してもらおう。

「それじゃ、行くぞ」

 俺たちは下水道へと入った。

 汚水の異臭を我慢して歩く。

 今頃、地上の越谷にミサイルが落下していることだろう。

「牧田、どっちが姉なんだ?」

「聡美が姉ですわ」

「ふーん」

「警部補が結婚したら私は義妹いもうとになるのですね」

「そうと決まったわけじゃないだろう?」

「あら? 私は警部補が姉さんに気があると思ってるのですけど」

 そうじゃない、と言ったら嘘になる。

 俺は聡美と生活を続けて、彼女を意識するようになっていた。

 一目惚れだった。

 あの日、彼女を一目見た時、とても可愛いと思った。

 血だらけだったけど、怪我が治れば綺麗なんだろう。

 俺はドレスを着て結婚式を挙げているところを想像した。

 聡美がどう感じているかは知らないが、俺は彼女に対して結婚願望を持っている。

「姉さんもたぶん、警部補に意識してると思いますよ」

 牧田はそう言うが、今の聡美の状態だと微塵も感じられなかった。

「健」

 不意に聡美が呼ぶ。

「ふぇ!?」

 変な声が出た。

「その先」

 と、聡美が向かう先を指差した。

 ゾンビが徘徊している。

 俺は拳銃でゾンビの頭部を貫いた。

 頭が吹っ飛び、首から下が倒れ落ちる。

「下水道にゾンビだと?」

 俺は遺体に近づいた。

 制服の警察官だ。

「……………………」

 俺は言葉を失った。

 かつて同僚だった仲間だったからだ。

 制服を調べると、警察手帳が出てくる。

 プロフィールに荻田と書かれている。

 警部だった。

「荻田警部……」

 俺は悲しみを押し殺して立ち上がる。

「行こう」

 三人で先へ進む。

 しばらく進むと、壁に草加市と書かれた札が貼ってあるのが見えてきた。

 付近を調べると、地上へ出るための梯子があった。

 俺たちは梯子を登ってマンホールを開け地上へ出た。

 二人が登ってきたところで、俺はマンホールを閉じる。

「誰だ!?」

 夜間パトロールの北草加警察署の警察官が遠くから近づいてくる。

「そこで何してる!?」

 マンホールから出てきたもんで、それを目撃した警察官は不審に思ったんだろう。

 俺たちは逃げることなく、そして俺と牧田は警察手帳を提示した。

「隣の越谷市から脱出してきた」

「おお! それじゃああのゾンビ事件の生存者か!」

「地域課の警部がゾンビになって死にました」

「そうか……」

 警察官が聡美に気づく。

「そちらの子は?」

「姉の御影 聡美ですわ」

 と、牧田が言う。

「姉を署で保護してもらえないでしょうか?」

「構いませんよ」

 警察官は聡美に声をかけた。

「御影さん、署に行きましょう」

 聡美は警察官と共に北草加警察署へと歩いていった。

「警部補」

「うん?」

「あの先が越谷ですよね」

 歩いてきた方角を見ると、焦土と化した越谷が見える。

 塞いでいたバリケードはミサイルの影響で吹っ飛んでいた。

「終わったんだな……」

 そう誰もが思った。

 そう思いたかった。

 しかし、これはほんの序章にしか過ぎなかった。

 その時、俺はまだ知らなかったんだ。

 この先で起こる、とんでもない事件の真相を。

『こちら北草加警察署! 警察署にゾンビ発生! 警察署にゾンビ発生!』

 と、俺の無線から緊急事態宣言が入る。

「え……」

「行きましょう」

 牧田が警察署へ向かっていく。

 俺も後を追った。

 警察署に着き、中へ入る。

 内部では警察官とゾンビの攻防戦が繰り広げられていた。

 俺は拳銃を取り出し加勢に入る。

「手え貸すぜ」

「ああ、助かる!」

 俺たちは銃撃でゾンビどもを撃ち落としていく。

 そして、しばらくしてゾンビの数が減っていき、やがて全ての敵を片付け終えた。

「保護されて来た女性を知らないか?」

「なんか署長と知り合いだったみたいで、さっき署長室へ行きましたよ」

「そうか、ありがとう」

 俺は署長室へ駆け込んだ。

「聡美!」

 扉を開け放ち、中に入る。

 そこには、血だらけになって倒れているおそらく署長と思しき年配の警察官と怯えた様子の聡美がいた。

「聡美……」

「ゾンビ、襲ってきた。ゾンビ、この人に噛みついて出てった」

「聡美は無事だったのか?」

「私、同じだから」

 そうだった。

 聡美もゾンビだった。

「健は、平気?」

「ああ」

 署長がゆっくりと起き上がる。

「うー」

 ゾンビ化していた。

 俺は署長の首をへし折り絶命させる。

 そこへ牧田がやってくる。

「牧田、ちょうどよかった。聡美と一緒にいてくれ。俺は外事課に行ってくる」

「え?」

 俺は署長室を飛び出して外事課に急いだ。

 北草加警察署は俺の古巣だ。

 越谷東警察署の地域課に異動する前、俺は北草加警察署の外事課で倉田と共にUV-ZOMBIEの捜査に携わっていた。

 だが、越谷でゾンビ事件が発生した時、俺は越谷東警察署の地域課に異動になっていた。

 外事課の職員室に飛び込む。

 先ほどのゾンビ装動のためか、中には誰もいない。

 倉田の机を探す。

(あった)

 俺は倉田の机の引き出しを調べると日記を見つけた。

 日記には、UV-ZOMBIEのことが書かれている。

 UV-ZOMBIEは宇宙由来のウィルスではなく、人型の異星人で、地球を侵略せんとやってきた宇宙人であるとのことだ。

 惑星ゾンビ人と呼ばれる彼らは、地球で人間を噛むことで、UV-ZOMBIEに感染させ、ゾンビ化。

 ゾンビ化したものはそのゾンビ人の忠実な下僕と化し、自我を失って星人の意思で動くようになるとのことだった。

 日記はそこで終わっていた。

 倉田は一体どこまで掴んでいたのか。

 恐らく、真相に近づき過ぎて消されたのではないか。

 今までの情報を整理しよう。

 聡美といるとゾンビに襲われない。

 牧田は噛まれたのに自我がある。

 下水道入口で待っていた聡美と牧田。

 そして下水道内のゾンビ化した荻田警部。

 まさか。いや、しかしそうとしか考えられない。

 考えたくないことだったが、これしか思いつかないのだ。

 あとはこれを裏付けるための物的証拠を見つけるまでだ。


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