3.双子
市立病院へ着く。
内部はすでにゾンビの巣窟と化していた。
襲いくるゾンビの手を掻い潜り、UV-ZOMBIEに対抗するワクチンがないか探し回る。
「健、お腹すいた」
と、聡美が空腹を訴える。
「お弁当食べますか?」
と、牧田が弁当箱を取り出した。
「この子は新鮮な肉しか食べないよ」
「私も肉食だからちょうどよかったです」
牧田が弁当箱の蓋を開けると、調理された肉が姿を現した。
聡美は手づかみで肉を取って齧り付いた。
ペロリと平らげた聡美は。
「足りない」
当然だった。
「困りましたわ。肉はそれだけであとは白米だけです」
金属音が聞こえる。
「……?」
「今のはなんでしょうか」
音の方を見ると、影のようなものが動いた。
「何かいる?」
影はだんだんと近づいてきて、やがてはっきりと目に映った。
それは、巨大化したカエルのような化け物だった。
「キシャアアアア!」
奇声と共に飛びかかってくる化け物。
「うわ!」
不意をつかれた俺は吹っ飛んで廊下に転がった。
武器は拳銃だけ。他に使えそうなものは転がっている消火器くらいか。
化け物が俺の上に飛び乗り、大きな口を広げた。
俺は懐から拳銃を取り出して顎に銃口を向ける。
「シャア!」
化け物の爪が俺の頬を裂いた。
生ぬるい赤黒い血液が飛沫をあげる。
そのとき、聡美が化け物の首を掴んで持ち上げた。
もがき暴れる化け物。
「ふん……!」
聡美は握力をあげ、化け物の首をへし折り殺害した。
化け物の死骸が廊下に転がる。
「大丈夫、健?」
「助かったよ」
俺は体を起こす。
「しかし、こいつは一体?」
「たぶん、カエルが感染して巨大化してしまったのではないでしょうか?」
「生命体が物理法則を無視して巨大化するとは思えんが……」
「とにかく、ワクチンがないか探しましょう」
探索を再開する。
「不気味なところだな。こんなときだから逆に怖く感じる」
「お巡りさんが怖がってどうするんですか」
「そうは言われても一人だったらのたれ死んでたかも」
あたりは血の海で、ところどころに遺体が転がってる。
「こいつら動かないよな?」
「私だって怖いのに追い討ちかけるようなことはやめてください」
「言ってることが矛盾してるぞ」
手術室の前で立ち止まる。
「何かいるわよ」
と、聡美が言う。
「そういや牧田、体調の方はどうなんだ?」
「大丈夫ですよ、今のところ」
「開けてみるか?」
俺は扉に手をかけた。
そっと隙間を作り、中を覗き込む。
暗くて何も見えない。
だが、中には確実に何かいる気配を感じる。一人や二人だけではない。
「ところで、あなた階級は?」
「一応、警部補」
「私は巡査部長」
「今は階級なんてどうでもよくね?」
「制服着てるってことは地域課ですよね?」
「新越谷交番の勤務員だ」
「ずっと交番を?」
「いや、一時は公安だった」
「外事課ですか」
「そうなるな」
俺は扉を閉めた。
「開けないんですか?」
「いや、今はやめとく。中は危険だ。気配が多すぎる」
手術室を後回しに、他を探索する。
「しかしなんでこんなことになってしまったのか。コロナの方が可愛く見えてきたよ」
「確かに新型コロナはただの風邪でしたもんね」
雑談をしている中、俺は先ほどから疑問に思っていることを牧田に訊ねる。
「そういや牧田って、髪型を除けば聡美に似てるな」
「彼女と間違えて襲わないでくださいね」
「こんなときだから皮肉にしか聞こえないな」
「まあ、似てるのも当然ですよ」
「どうして?」
「だって、私と聡美は双子の姉妹ですから」
「ふーん……」
……。
…………。
………………。
「なんだって!?」
「私の旧姓、御影なんです。牧田は結婚による改姓です」
「そうだったのか」
「二人とも、なんの話?」
「聡美がゾンビ化する前は牧田と双子だったって話だよ」
聡美は首を傾げる。どうやら思い出せないようだった。
「ところで警部補のお名前は……?」
「斉藤 健」
「斉藤警部補ですね。私は巡査部長です」
「そうか。で、その巡査部長さんの旦那さんはどうしてるんだ?」
「ゾンビに噛み殺されました」
「それはご愁傷様。……」
俺は思った。
「お前、ゾンビ化してないよな?」
「主人を殺したゾンビに私も噛まれてるんです。感染はしたけど、理性は残ってますよ」
ひょっとしてUV-ZOMBIEはDNAによって症状に差が出るのか。
「うん? お前、さっき配属初日って言ったよな?」
「言いましたね」
「今、越谷市は隔離されてる。どうやって潜り込んだ?」
「あっさり入れましたわ。一方通行で出れないとは言われたけど」
「ちょっと待て。旦那は市外で噛まれたのか?」
牧田が写真を提示する。
写真には公安時代の同僚の倉田が映っていた。
「倉田?」
「牧田 征四郎。私の夫です」
「いや、こいつは倉田……。あ、そういうことか」
公安部は職務の性質上、仲間にも偽名で通す場合がある。
「そうか。あいつ死んじまったのか」
そのとき、ゾンビどもの近づいてくる気配を感じた。
「来やがった」
足を引き摺る音が聞こえてくる。
「うー」
ついに奴らが姿を現す。
逃げ道はない。
が、数は少数。
戦えない人数ではない。
「やるか」
俺は拳銃を取り出す。
「牧田、拳銃は?」
「さっき銃砲店からくすねてきましたわ」
牧田が拳銃を取り出す。
「窃盗罪だな」
「非常事態ですよ」
俺と牧田はゾンビどもの脳天を狙って構える。




