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4.失われし肉

 迫り来るゾンビの脳天を貫き、一発で仕留めていく。

「けどいいのか? 殺しちまって」

「ワクチンを見つけても戻せる保証はないですからね」

「確かにな」

 襲いくるゾンビの群れを次々に撃ち落とす。

 やがて、全てのゾンビが地にした。

「やべえ、予備の弾切れた」

「それクラインシステムじゃないの?」

「クラインシステム?」

「最近導入された無限弾倉技術を使った銃器のことですよ」

「残念ながら俺はまだ受け取ってない。受け取る予定だったんだが、この騒動でそれどころじゃなかった」

 俺と牧田は拳銃をしまう。

「警察署に行けばあるはず。後で調達しましょう。それと、生存者や特異点を見つけて共に越谷市からの脱出も」

「そうだな」

 背後で聡美が倒れる。

「聡美?」

 俺は振り返った。

 聡美は力のない声で言う。

「お肉……」

 そうだ。すっかり忘れていた。

「確か食堂がありました。そこなら肉があるかもしれません」

 俺は聡美をファイヤーマンズキャリーで担ぎ上げる。

「お姫様抱っこじゃないんだ?」

「倒れた人間をお姫様抱っこなんて物理的に無理だ」

 俺たちは食堂まで歩く。

 食堂にはゾンビの姿があった。

 牧田が拳銃でゾンビを仕留め、安全を確保した。

「悪いな、なにもできなくて」

 俺は聡美を椅子に座らせながら言った。

「別にいいですよ、このくらい」

 俺は警察官姿のゾンビの死骸へ歩くと、持ち物を調べた。

 ハンドガン用の予備の弾を見つけた。

 俺は弾を回収しておく。

「斉藤警部補、少量ですけど冷蔵庫に生肉がありますよ」

 俺は冷蔵庫まで歩く。

 冷蔵庫には電気が通っていなかった。

 生肉の匂いを嗅ぐ。

「臭!」

 腐敗が始まっている。

 こんなものを聡美に食わせるわけにはいかない。

「腐敗してますね」

「ああ」

「でも待って。火を通せばギリいけそうですよ」

「電気が通ってないんだ。火も通ってるかは怪しいところだ」

 ガスコンロのつまみを回す。

 点火は……しなかった。

 致し方ない。家まで取りにいくか。

「牧田、署の男子寮に肉が少しだけ残ってる。それを取りに行きたい」

「わかりました。ですが、聡美はどうするんですか? あの状態では動けそうにないですよ」

「致し方ない。一人で行ってくるよ」

「気をつけてくださいね」

「ああ」

 俺は食堂の入り口へ歩く。

「健?」

「肉を取ってくる。待っててくれ」

 俺は病院を離れると、署の寮へ急いだ。

 寮に着き、部屋に入る。

 と、室内は荒れ果てており、冷蔵庫の中に残っていた貴重な牛肉も食い散らかされてしまっていた。

「畜生!」

 俺は寮を出ると、食料を探すため、警察署内に入った。

 署内には勾留者用の食事を作る調理場がある。そこになら肉があるかもしれない。

 だがその前に、拳銃保管庫で無限弾倉銃を回収した。

 普通の拳銃は邪魔だから置いていく。

 俺は調理場へと移動した。

 冷蔵庫を開けてみるが、中は空っぽだった。

「誰だ!?」

 生き残っている職員が現れ、振り返ると拳銃を向けていた。

「あ……なんだ、斉藤か」

 地域課の上司である荻田おぎた警部だった。

「荻田警部、無事だったんですね」

「ああ。お前が出て行ったあと大変だったんだ。ゾンビの群れが侵入してきて、占拠されちまってな。なんとか取り押さえて檻の中にまとめて勾留はしたんだが、そのための犠牲も多かった」

「荻田警部、肉が欲しいのですが」

「肉ね……。もうないんだ」

「それじゃあ、ありそうな場所を知りませんか?」

「いや、この越谷自体から肉は失われた。生存者の食料として使ったらあっという間になくなっちまった」

「それじゃあ、肉を欲してる子に食わせてやれないじゃないですか」

「それって、お前が保護してるあのゾンビの女の子か?」

「はい」

「野菜は食べないのか?」

「試したんですが、肉以外は食べません」

「ゾンビの肉」

「共食いもしません」

「それじゃあ諦めろ。肉はもうない」

「生存者はどうしたんですか?」

「署の地下から外部に逃した」

「地下?」

「署には下水道に繋がる地下フロアがあってな。下水道から市外へ避難させたよ。生き残った我々も後から市外へ出るつもりだ。いくならお前も連れていくが、ゾンビの女の子は置いていけ」

 俺の脳裏に聡美の姿が浮かぶ。

 無理だ。置いてけない。

「いや、置いてけませんよ」

「そうか……。では、せいぜい残りの人生を十分に楽しんでおくんだな」

「どういうことですか?」

「政府の発表で越谷の滅菌をすることが決定された」

「滅菌?」

「ああ。小規模な核ミサイルで越谷を吹っ飛ばすらしい。やり方がクレイジーだよな、全く」

「なんですって!?」

 俺は病院に向かって駆けっていた。

 病院の食堂に飛び込む。

「おかえり」

 と、牧田。

「健、お肉は?」

 聡美が手ぶらの俺に訊ねる。

「それどころじゃない」

「……?」

「この街を出よう。肉は後回しだ」

「どういうこと?」

「もう直ぐこの街は核ミサイルで吹っ飛ぶんだ」

「なんですって!?」

 と、牧田が驚いた。

「かくうみさいる?」

「核ミサイル。いわゆる滅菌だ」

「そんな……!」

 怯える聡美。

「でも安心しろ。警察署の地下から下水道を通って脱出できることがわかった。上司の目を盗んでそこから脱出する。ワクチンを見つけたら決行する」

「だけど、私はらぺこで動けない」

「我慢してくれ」

「……………………」

 言葉を失う聡美。

「ダメ元で給食センター行ってみるか?」

「給食センター?」

「小中学校の給食作ってるところ。肉があるかもしれない」

「わかった。頑張る」

 聡美が立ち上がる。

 三人はワクチンを回収するため、院内を探索する。


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