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2.病院へ

 越谷市内でバイオハザードが発生し数週間。

 UV-ZOMBIEは着実に周辺に広がっていた。

 この数週間、俺は聡美に日本語を教えなおしていた。その甲斐もあって、聡美はある程度の日本語を理解し、日常会話くらいはできるようになっていた。

 その日の朝、俺は聡美に起こされた。

「どうした?」

「健、お肉食べたい」

 聡美と出会ってから、彼女は肉以外を食べなかった。

 うちにストックしていた大量の牛肉もそろそろ底をつきかけていた。

 今ある肉がなくなったら、どこかで調達することになるのだが、状況が状況で食糧を手にいれることに難航していた。

「まいったなあ。肉がもうなくなるぞ」

 冷蔵庫の中の肉も残り少ない。

 以前、ゾンビの肉を食わせるのはどうかと試してみたが、どうやら共食いはしないようで、感染していない新鮮な肉しか摂取しなかった。

 最悪、人間の肉を食わせることになるだろうが、それも有限でなくなったらどうするべきか。

「聡美、出かけよう。肉を調達しないと、もう残り少ないんだ」

「わかった」

 俺と聡美は寮を出ると、街に繰り出した。

 街には人っこ一人おらず、ゾンビがうようよしていた。

「うー」

 ゾンビが唸りながら襲いかかってくる。

 俺は攻撃をかわし、ゾンビを地面に押し付ける。

 拳銃の弾も定期的に警察署でストックしているとはいえ、その数には限りがある。ここぞというときでなければ、無駄に使うことはできない。

「きゃああああ! 誰かああああ!」

 女性の悲鳴。

 急いで駆けつけると、女性がゾンビに襲われていた。

「やめろ!」

 俺はゾンビに体当たりをした。

 ゾンビはよろけて倒れるが、すぐに立ち上がって襲ってくる。

 騒ぎに乗じてか、他のゾンビたちが集まってきた。

(囲まれた!?)

 退路を塞がれ、逃げ場を失ってしまう。

 横を見ると、建造物内への扉を発見した。

 扉の向こうにゾンビのいない保証はできないが、逃げ込まないよりかはマシだ。

「こっちだ!」

 俺は扉に手を伸ばす。

 三人で中に入り、扉を閉めて鍵をかける。

「二人とも、ここにいて」

 俺は安全を確保するため、内部の探索をする。

 薄暗いため、懐中電灯を点けた。

 どうやら警察御用達の銃砲店のようだ。

 奥から銃声が聞こえる。

 俺は拳銃を構えながら音のする方へ歩く。

 角の向こうを覗き込むと、店員がゾンビ一体に弾を撃ち込んでいる。

「くっそ、化け物め!」

 店員が拳銃を連射しているが、すぐに弾切れを起こしてしまう。

 怯んでいたゾンビだったが、攻撃の手が緩んだために、店員に接近し始める。

 俺は一発の弾でゾンビの脳天を貫き、店員の安全を確保した。

「大丈夫か?」

「あんたは?」

「越谷東署のものだ」

「警察官か?」

「ああ」

「助けに来てくれたのか?」

「いや、俺も囲まれて逃げてきた」

「お互い袋の鼠か」

 そこに、心配になった二人がやってくる。

「なんだ、来たのか」

「健、大丈夫?」

 聡美が問う。

「とりあえずな」

 それよりも、ここからどうやって脱出するかを考えなくてはならない。

 俺は拳銃をしまい、窓越しに外の様子を確認する。

 銃砲店はゾンビに完全に包囲されていた。

 俺は無線を手に取る。

 しかし、通信ができなくなっていた。

 どうやら、警察署も安全ではないらしい。

「裏口はあるか?」

「あるにはあるが、開けたら入ってくるぞ。さっきの一匹がそうだ」

 店員が肩を押さえる。

「噛まれたのか?」

 店員の肩から出血していた。

「軽い擦り傷程度さ」

「だけど、感染してるかもしれない」

「大丈夫だ。俺の体は丈夫でな。風邪も引いたことはないんだ」

 だが店員は全身を掻きむしり始める。

「なんか体が痒いな」

「あんた感染してる。残念だけど」

 俺は拳銃を取り出した。

「ま、待ってくれ。撃たないでくれ」

 店員が両手を上にあげる。

「そうですよ。お巡りさんが殺人なんて」

「でも放っておくと彼もアレと同じになる」

「病院へ行けばワクチンがあるかもしれませんよ」

「ワクチン? そんなものがあるのか?」

「わかりませんけど、研究はしてると思いますよ」

「なるほど……」

 俺はしばし考えた。

 ここを脱出して、病院へ行けば店員も助かるかもしれない。

「う……」

 店員が意識を失って倒れる。

「おい、大丈夫か?」

 少し経ってから、店員は起き上がった。

「うー!」

 店員が近くにいた女性に噛みついた。

「きゃあ!」

 むしゃむしゃと齧り付くゾンビ店員。

 俺はゾンビの脳天を拳銃で貫いた。

 倒れて息絶えるゾンビ。

「あんたも絶命する覚悟をした方がいいぞ」

「ゾンビって死んでいるんでしょうか?」

「え?」

「私には死んでいるとは思えなくて。たぶん、UV-ZOMBIEで病気を発症しただけなんだと思います」

「なぜコードネームを?」

 女性が懐から警察手帳を取り出す。

「今日付で越谷東署に配属になった捜査一課の牧田まきた あきです。配属初日にこんなパンデミックに遭遇するなんて思ってませんでした」

 パンデミックにより、越谷市は防衛省によってすぐに隔離されていた。そのため、UV-ZOMBIEが越谷市外へ出ることは防げていたが、同時に人間も通せない状況だった。

「とりあえず、市立病院へ行きましょう。警察署の隣にあったはずです」

「感染してるかもしれない人と同行するのはリスクが高すぎる」

「ゾンビを連れてるのに?」

「え?」

 牧田は聡美を見ながらいう。

「この子ゾンビでしょ?」

「なぜ?」

「全身血だらけでボロボロの服を着てるのを見れば大体予想はつきますよ。この子はゾンビだけど、人を襲っていない。ゾンビになっても理性が保てるということですよ」

 牧田の言うことにも一理ある。

 聡美に理性があるように、他のゾンビにも知性がないとは言い切れない。

「わかった。病院へ行ってみよう」

 俺は聡美と牧田を連れて、病院へ行くことにした。

「裏口を確認してくる」

 そう言って俺は裏口の様子を確認しに行く。

 ゾンビの気配はなさそうだ。

 徐に扉を開けてみる。

「今なら行けるぞ」

 俺は二人を連れて、裏口から外に出て病院を目指した。


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