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1.ゾンビ

 街はゾンビで溢れかえっていた。

 原因は宇宙より飛来した未知のウィルス・UV-ZOMBIEによるものだ。

 感染したものは、全身の痒みで体を掻きむしって血だらけになるのと同時に判断力の低下と肉を欲するようになる。たとえそれが人間の肉であろうと満腹になるまで貪り尽くし、噛まれたものは傷口からの侵入によりウィルス感染を引き起こし、新たなゾンビへと変貌する。

 事態を察知した警察官の俺は、同僚と共に街を回りゾンビを仕留めながら生存者の捜索を行っていた。

「あー」

 うめき声をあげながら、端正な顔立ちをした女性が徐に路地裏から飛び出してくる。

「綺麗だけどゾンビはな……」

 俺は拳銃を構えると、ゾンビ女性の脳天に狙いを定めた。

 ゾンビ女性はこちらに気づき、徐に接近してくる。

「うー」

 俺は引き金を引くが——。

「しまった! 弾切れだ!」

 ゾンビ女性から距離をとりながら、弾丸を拳銃に詰める。

「なあに。痛みは一瞬だ」

 引き金を引いた瞬間、ゾンビ女性が飛来する弾丸をかわす。

「……!?」

 俺が驚いて動揺していると、その隙にゾンビ女性が眼前まで迫ってくる。

 ゾンビ女性の腕が俺の肩に伸びてくる。

 俺は咄嗟にゾンビ女性の手首を掴むと、襟元を持って背負い投げで地面に倒して押さえつけた。

「ぐわああああ! がああああ!」

 暴れるゾンビ女性に対して俺は違和感を覚えた。

(こいつ、今までのゾンビと何か違う……)

 通常のゾンビであれば、多少暴れても怪力は発揮しないはずだ。

 しかし、このゾンビ女性はものすごい怪力で俺の拘束からいとも簡単に抜け出したのである。

 まるで意思があるかのようにゾンビ女性は体の向きを変えて俺の顔を見上げる。

 俺はゾンビ女性に銃口を向ける。その顔は恐怖に怯えていた。

「あ……」

 撃つな、とでも言ってるのだろうか。しかし、こいつはゾンビ。駆除せねばより多くの被害者が出る害虫だ。

「お前、人の言葉がわかるのか?」

「……………………」

 ゾンビ女性は無言を貫く。

 確かめてみようと思った俺は、拳銃を構えたまま片方の手をゾンビ女性の口元に伸ばした。

 ゾンビ女性は牙をき、俺の指に噛みつこうとした。

 拳銃を構える俺の手に力が入る。

 ゾンビ女性は状況を察したのか、噛みつこうとしていたのをやめた。

 それにしても、見れば見るほど綺麗な女性である。

「に……く……」

(今、肉と言ったか?)

「お……な……か……」

 聞き間違いなどではなかった。確かに、『おなか』と言っているのだ。

 どうやらこのゾンビは空腹であることを伝えているようだった。

 もしかするとゾンビとは共存ができるのではと、俺はこの事態に一縷いちるの希望を見出みいだした。

「ちょっと待ってろ」

 俺は辺りを見渡した。

 ちょっと行った先に肉屋があるのを見つけた。

 俺は肉屋に向かって駆けった。

 ウィンドウの中に肉がいくつか並んでいる。

 店員は避難でもしたのか、近くにはいなかった。

 俺は拳銃でウィンドウを割り、肉を一つ手に取って彼女の元へ戻った。

「これしかないけど」

 ゾンビ女性は肉を手に取ると、一気に齧り付いた。

 むしゃむしゃと音を立てながら勢いよく食べている。

 音がやんだ。差し出した肉を食べ終えたのだ。

「君、もしかしてゾンビじゃない?」

「……?」

 ゾンビ女性は言葉の意味を理解できていないのか首を傾げていた。

 言語理解はほぼないが、ある程度の知能はあるのかもしれない。

 ちゃんと教育すれば、人間だった頃の知能を取り戻せるだろうか。

「ちょっとごめんよ」

 俺はゾンビ女性の服を調べた。

 運転免許証が出てくる。

 免許証には御影みかげ 聡美さとみと書かれていた。血だらけの本人ではあるが、写真の顔とも一致していた。

 俺は無線を手に取ると、本部へ連絡を入れた。

「越谷東署地域課より本部。ただいま市内で生存者を発見。これより所轄署で保護する」

「了解」

 と、無線から応答が返ってくる。

 俺はゾンビ女性の聡美を警察署へ同行させる。

 署内は異様にピリついていた。

「生存者を保護したのか?」

 同僚の問いに俺は首を振った。横に。

「ゾンビなのか?」

「ああ」

「てめえ気は確かか! ここをゾンビハウスにでもするつもりか!?」

 当然、怒られた。

「それがですね、ゾンビにも知能があることがわかったんですよ。ちゃんと教育すれば人間だったころに戻せるかもしれません」

「責任はどうする? お前の尻拭いはできないぞ」

「わかってますって。あっと、俺、このまま帰るから」

 平時なら着替えて拳銃保管庫に拳銃をしまうのだが今は有事だ。帰宅時も拳銃の所持が特例で許可されていた。

 俺は聡美を連れて寮へ帰宅した。

 聡美は初めての場所できょとんとしていた。

「俺の家だ」

「……………………」

 聡美は俺を見つめている。

「そういや名乗ってなかったな。健だ。斉藤さいとう たける。わかるか?」

「た……け……る……?」

「ああ、そうだ」

 かくて、人間の俺とゾンビ女性との共同生活が始まった。


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