13.新たな仲間
さいたま市浦和区。
空腹に苛まれた俺は、生肉を求めて外を歩いていた。
しかし、どこへ行っても人っこ一人いない。
なぜだ。
なぜ誰もいないんだ。
道路にも。
店の中にも。
公園にも。
人の姿が見当たらない。
まるで街全体から人間が消えてしまったかのようだった。
これでは飢え死にをしてしまうではないか。
無人の街に風が吹き、新聞紙が飛んできて顔に当たる。
「あ?」
俺は新聞紙を手に、記事を読んだ。
『草加市、ゾンビ化。さいたま市避難』
なるほど人間はそれでいないのか。
となれば、人間を追う他に方法はない。
しかしどこに逃げたのか。
さいたま市を離れ、隣県にも行ってみたが、どこにもいない。
シェルターのようなところにでも逃げたのだろうか。
「うー」
飢餓状態のソフィア様が街を徘徊している。
「お腹空いたよー」
「ソフィア様」
「あ、健」
「人がいなくなってしまいました」
「もしかして全部食べ尽くした?」
「いや、俺たちに怯えて逃げたみたいですよ」
「じゃあ早く捜しなさいよ。あなた人捜しのプロでしょ?」
「と言われても手がかりがこれといってないんじゃ捜しようがないですよ」
「口答えしてんじゃないわよ」
と、ソフィア様は小声で言うが、俺には聞き取ることができなかった。
「え? 今なんて?」
「別に……」
「人以外はダメですか?」
「この際、人以外でもいいわよ。なんか見つけてきて」
「わかりました」
俺は代わりの肉を探すため、全力で捜索した。
野良猫。
カラス。
ネズミ。
ペットショップ。
動物園。
あらかた捜し回り、少量の肉を手に入れることはできた。
俺は少量の肉を手に、ソフィア様の元へ戻る。
「ソフィア様、これだけですが、肉を持ってきました」
「おにくー!」
ソフィア様が嬉しそうに肉に齧り付いた。
ムシャムシャと音を立てながら食べている。
その横で俺も肉を頬張る。
「はあ、生き返った」
食べ終えたソフィア様が言う。
「人、捜そうか」
「はい」
俺とソフィア様は人を捜すことにした。
「匂うわ」
「何がです?」
「人の匂い。こっち」
と、ソフィア様が地下鉄の駅へと歩いていく。
改札を抜けると、ホームに電車が止まっていた。
「生存者だ! ドアを開けろ!」
車掌が電車の扉を開ける。
俺たちは電車に乗り込んだ。
「君たちで最後だ。この電車で路線を乗り継いで関東を離れる」
扉が閉まり、電車が動き始めた。
「餌がいっぱいだね」
ソフィア様が俺の耳元で囁く。
「みんな新鮮で美味しそうですね」
「とりあえず、今日一日は持ちそうね」
俺の口から涎が垂れそうだった。
その晩。
俺とソフィア様は車内の人間を貪り尽くしていた。
逃げ場を失った人々が恐怖で顔を慄かせる様子は実に快感だった。
二人で食い散らかした人間はUV-ZOMBIEに感染してゾンビ化していた。
ゾンビ共は人間を求めて電車を降り、地上へと向かっていく。
「うわああああ!」
地上から男性の悲鳴。
「きゃああああ!」
さらに女性。
「ソフィア様、外に出てみましょう?」
「うん」
俺とソフィア様は駅の外へ出る。
ゾンビ化した人間共が彷徨っている。
遠くで銃声がする。
どうやら、警察官がゾンビに銃撃しているようだった。
俺たちは銃声の元へ向かった。
「なんだこいつら!? 止まれ!」
警察官が制止するが、ゾンビ共はそれを無視して迫っていく。
「くそ、なんなんだ!?」
警察官は逃げようとするが、行き止まりに当たって袋小路にされてしまう。
俺はマグナムを取り出し、ゾンビに向ける。
「殺しちゃうの?」
「あの警察官を利用するんです」
俺はマグナムでゾンビの頭を吹っ飛ばし、警察官へと歩み寄る。
「大丈夫か?」
「助かったよ。君は、埼玉県警の制服か」
目の前の制服警察官は福島県警察だった。
「御影 健。警部補だ」
「僕は坂宮 慶太郎。巡査です」
ソフィア様が近づいてくる。
「そちらは?」
「妻です」
と、微笑みながら答えるソフィア様。
「健、ちょっと来て」
「はい?」
俺は坂宮の前をソフィアと共に離れる。
坂宮はそんな俺を見て疑問符を浮かべている。
「あのお巡りさん、同じ匂いがする」
「え?」
「だから、ゾンビ星の匂いがするって」
俺は坂宮を見る。
「本当ですか?」
「うん。あなたと同じ匂いだった」
俺とソフィア様は坂宮の前に戻る。
「坂宮くん、君は肉は好きかい?」
「はい、大好きです」
「野菜は?」
「嫌いです。近くに置かれると吐きます」
なるほど。
こいつは本当にゾンビ人かもしれない。
「あれ?」
背後から聞き覚えのある声。
振り返ると、そこにはアンゼロット様がいた。
「警部補、こんなところで何してるんですか?」
「あなたこそ何を?」
「私は短期出向で来てて、たまたま通りかかったらゾンビが徘徊してて、銃声が聞こえたから駆けつけてきただけですよ」
アンゼロット様が首のないゾンビを見て納得する。
「そういうことですか」
アンゼロット様は坂宮を見る。
「あら、坂宮巡査じゃない」
「あ、牧田巡査部長」
二人の会話に俺は割り込んだ。
「二人は知り合い?」
「ええ。彼はゾンビ星の星間情報官なんです。地球の情報収集を担当してて、警察官として私が送り込みました」
俺は坂宮を見る。
「ゾンビ星人なの?」
「はい」
「アンゼロット様とはどういう関係なんだい?」
「牧田……いえ、アンゼロットさんは僕の上司に当たる方です」
「そうなんだ」
坂宮の顔が曇る。
「御影警部補こそ、アンゼロットさんとはどういう関係なんですか?」
「どういうって……」
俺はアンゼロット様を見た。
ご主人様である。
「まさか、眷属じゃないですよね?」
「眷属?」
「ゾンビ星人の女性は男性と性交渉をした時、自身のDNA情報を男性に送り込み、眷属化するんです。男性が眷属になるというのは、その女性に対して生涯をかけて愛を貫き、主従関係を結ぶ行為です」
俺はソフィア様を見る。
そういうことだったのか。
俺は俺の知らぬ間にソフィア様と主従関係を結んでいたのか。
俺は坂宮を向いて訊ねる。
「え、でもそしたらアンゼロット様はどういうことなんだ?」
「はい?」
「俺はこっちのソフィア様としか主従関係は結んでいない」
と、ソフィア様を指し示す。
「ソフィアさん……?」
坂宮はソフィア様を見つめる。
「ああ! これはこれは、ソフィア王様ではないですか!」
「ソフィア王様?」
「ソフィア王様はゾンビ星の王族のトップに君臨するお方です。そんな崇高なお方と主従関係を結ばれるなんて、とても光栄なことですよ!」
全然知らなかった。
俺は王家の、それも頂点の女性と結婚していたのか。
その上さらに子どもまで作って。
なんだかとんでもないことになっているような気もするが、それでも俺たちが愛し合ってるのは嘘偽りのない事実だ。
なぜなら。
ソフィア様の方から性交渉を求めてきたからである。
そして俺は、それを受け入れた。
その結果がこれである。
「ちなみに、アンゼロットさんの件ですが、ソフィア王様とは一卵性双生児なので、その影響です」
「え?」
「一卵性双生児はDNA情報が一緒なので、片方と主従関係を結ぶともう片方とも自動的に締結されるんですよ」
「そうなのか」
はた迷惑な能力だ。




