14.想い想われて
翌朝。
俺はソフィア様とアンゼロット様、そして坂宮の四人で喫茶店にいた。
「え、あの化け物、御影警部補たちが作ったんですか?」
「正確には、感染させた、だけどね」
「感染?」
「俺たちゾンビ人はUV-ZOMBIEなるウィルスを持っている。それに感染すると、奴らはゾンビと化し俺たちの操り人形になるんだ」
「知りませんでした。奴らは人を食ってました。食うことが感染に繋がるんでしょうか?」
「そうだな。食うことで我々のウィルスが体内に入ってゾンビになるようだ」
「しかし警部補、あなたは地球育ちだ。どうしてそんな残酷なことができるんですか?」
「覚えちまったんだ。人肉の味をな」
「人肉の味?」
「ああ。人肉は地球上のどんな肉よりも美味だ」
ソフィア様とアンゼロット様が相槌を打っている。
「そんなに美味しいなら僕も食べてみようかな」
「病みつきになるぞ」
「御影警部補が言うんならそうなんでしょう」
カウンターの向こうで店員が俺たちの話が聞こえて顔を顰めている。
「それと、HUNTER-ZOMBIEがこの地球で暗躍してる。君にはその根源を断つことに協力してほしい」
「HUNTER-ZOMBIE?」
坂宮の疑問にアンゼロットが答える。
「ハンター人が持つウィルスよ」
「ちょっと待ってください。ハンター人は我々ゾンビ人の姉妹種族だったはずです。それがどうして……?」
「500年前に意見の食い違いで敵対関係になったのよ」
「え? それって僕が地球に来た後じゃないですか」
その言葉に俺は突っ込まずにはいられなかった。
「ちょっと待ってくれ。坂宮はいったい何歳なんだ?」
「3938歳ですね」
俺は言葉を失った。
「……警察官」
「ああ、それは今の時代のですね。昔、江戸時代でしたら奉行所ですし、それ以前も似たような仕事をしてました。だから、アンゼロットさんは警察官として送り込んだと」
「……ちょっと待てよ? 坂宮がアンゼロット様と旧知の仲なら、ソフィア様は年寄りじゃないか」
「健くん?」
と、ソフィア様が笑顔で訊ねるが、その目は笑っていなかった。
「しばくわよ」
俺はソフィア様の発言に恐怖を覚えた。
「すみませんでした」
俺の顔面にソフィア様の拳が埋まる。
「痛!」
「殴るわよ?」
「殴ってから言わないでください!」
「ふん!」
と、鼻を鳴らしてそっぽを向くソフィア様。
ソフィア様、暴力振るうタイプなのか。
「悪い?」
「何がです?」
「暴力振るうのが悪いって聞いたの」
何も言っていないのに、心の中を読まれたようだった。
「あなたの考えてることは私に筒抜けだからね?」
能力者なのかこのお方は。
「ついでに言っとくと、私に隠し事はできないわよ」
「しないですって」
「ならいいけど、私は読心術を心得てるからね。嘘ついてもわかるわよ」
読心術。
話には聞いたことがある。
人智を超えた力で相手の心の中を読む特殊能力が存在するという。
その持ち主の前では、いくら嘘をつこうが、最終的には心を読まれ、全て露見してしまうのである。
「えっと、じゃあ俺が今何を考えてるか当ててくれますか?」
正直、そんな超能力など信じてはいない。さっきのは偶然だ。
「別にいいけど」
乗ってくるのか。
自信のある女だ。
俺はソフィア様に向かって、大好きです、そう念じた。
すると、ソフィア様が嬉しそうに顔を赤らめていた。
本当に読めるのか。
いや、体調を崩しただけかもしれない。
「ソフィア様、顔が赤いですけど、具合が悪いんですか?」
「べ、べべべ、別に赤くなんかなってないわよ!」
ソフィア様はそう言って拳を構えた。
殴られる。
俺はそう思ったが、ソフィア様は拳を引っ込めた。
「あのー、僕たちは蚊帳の外なんでしょうか?」
と、坂宮が訊いてくる。
「あー、すまん」
「いえいえ」
「坂宮」
「なんでしょう?」
「まあ、頑張れ」
「え?」
坂宮は気づいていないが、俺には予想がついていた。
「坂宮、ちゃんと伝えるんだぞ」
「だからなにをです?」
アンゼロット様への好意に決まっている。
昨晩の坂宮のあの発言。
『アンゼロットさんとはどういう関係なんですか?』
これはもう、そういうことなんだろう。
「それじゃあ、あとはお二人で」
俺とソフィア様はお金を置いて席を立つ。
「え? ちょっと」
と、坂宮が戸惑っている。
背後で「行かないでくださいよ」と言う坂宮。
*
喫茶店でアンゼロットと二人きりの坂宮。
「坂宮くん」
「はい」
「昨日の『アンゼロットさんとはどういう関係なんですか?』って、そういうことでいいのかしら?」
「え?」
「だから、あなたは私のことが好きなわけ? 男ならハッキリ言いなさいよ」
「……………………」
坂宮は赤くなっている。
「坂宮くん!」
「はい!?」
「お願いだから言って?」
「ア、アンゼロットさんこそどうなんですか?」
「わ、私!?」
驚いて戸惑うアンゼロット。
「す……」
き、と言おうとしたが、坂宮には聞こえていない。
「聞こえないです」
「一度しか言わないわよ。聞いてないのが悪い」
「アンゼロットさん!」
「ととと、とにかく、今日は帰って休みなさい。寝てないんでしょう?」
「僕には優しいんですね、アンゼロットさん」
アンゼロットは顔を赤らめる。
そして、湯気を噴いて背もたれに倒れ込んだ。
「アンゼロットさん?」
坂宮は心配そうにアンゼロットを見つめる。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だけど大丈夫じゃない」
「それは大変ですね。宿まで送りますよ」
「ひ、一人で帰れるから!」
アンゼロットは顔を真っ赤に染め上げたまま、席を立って店を出て行った。
(僕もアンゼロットさんの眷属になったらこき使ってくれるのかなあ?)
ドMの思考だった。




