在り色
その夜。
神殿の灯りが一つずつ消えていった。
花組も眠りにつき、玄灯も自室へ戻っている。
キヌヤだけが、廊下の窓から外を眺めていた。
第七区画。
月明かりの向こうに、深い森が広がっている。
「……。」
その時。
背後から、声がした。
「眠れないんですか。」
キヌヤが振り返る。
誰もいない。
「……?」
もう一度、外を見る。
すると。
神殿の門の向こう。
白い衣が立っていた。
昨日の者だった。
キヌヤは驚きながらも、すぐに外へ出る。
「また来たんですね。」
「ハい。」
「どうしたんですか?」
白い衣の者は少し黙ってから答える。
「あなたニ、話しておきたいコトがありまス。」
キヌヤは静かに聞く。
「何でしょう。」
「ワタシハ。」
「亡キ色ではありマセん。」
キヌヤの目が僅かに開く。
「……でも、元は亡き色なんですよね。」
「ハイ。」
「それでも?」
白い衣の者は頷く。
「ワタシは、自分を亡キ色だとは思っていマセン。」
「人ヲ襲いたいトモ思わない。」
「亡キ色を憎んでいるワケでもありマセン。」
「タダ。」
少しだけ声が震えた。
「止めタイんデス。」
キヌヤは黙って聞いている。
「ダから。」
「ワタシは在リ色です。」
その言葉を口にした瞬間。
どこかで名前を決めたような、静かな覚悟があった。
「在り色……。」
キヌヤが呟く。
「はイ。」
「ワタシが勝手にそう呼んでイルだけデスケド。」
「それでも。」
「ワタシは、ソウありたい。」
キヌヤはしばらく黙っていた。
そして。
「分かりました。」
「……信ジテくれるんですカ?」
「全部を信じたわけではありません。」
キヌヤは穏やかに答える。
「でも。」
「あなたが何を望んでいるのかは、少し分かった気がします。」
在り色は目を伏せる。
「アリがとうゴザイます。」
その時。
神殿の奥から足音が響いた。
サクヤヒメだった。
「キヌヤ。」
キヌヤが振り返る。
サクヤヒメの視線が、白い衣の者へ向く。
「……。」
在り色もサクヤヒメを見る。
二人の間に、短い沈黙が落ちた。
サクヤヒメは淡々と言う。
「また来たのですね。」
「ハイ。」
「目的は。」
在り色は答える。
「キヌヤさんニ伝えたいコトがありマシタ。」
「そうですか。」
それだけ。
サクヤヒメは在り色を見つめる。
「あなたが自ら何と名乗ろうと。」
「私にとっては亡き色です。」
在り色は静かに頷いた。
「分カッテいます。」
そして。
「ソれでも。」
「ワタシは在リ色として生キマス。」
サクヤヒメは何も答えなかった。
ただ。
その言葉を否定することもしなかった。




