奥の方
二人はさらに奥へ進んだ。
木々の間を抜けるたび、神域特有の静けさが濃くなっていく。
キヌヤが足を止めた。
「……ここから先は、少し気をつけてください。」
「何かあるのか。」
「以前、ここであの人を見ました。」
玄灯が周囲を見渡す。
「近くにいる可能性は?」
「分かりません。」
キヌヤは慎重に歩を進める。
しばらく進んだところで、ふと立ち止まった。
「……ここです。」
「何じゃ?」
キヌヤが指差した先には、小さな石碑があった。
苔に覆われていて、長い間誰にも触れられていないようだった。
玄灯が近付く。
「これは?」
「分かりません。」
キヌヤも石碑の前にしゃがみ込む。
表面を覆う苔をそっと払う。
すると、その下から古い文字が現れた。
「……かなり古いですね。」
「読めるか?」
「一部だけなら。」
キヌヤは文字を目で追っていく。
「『第七区画』……。」
玄灯が眉を寄せる。
「昔からこの場所は第七区画と呼ばれていたのか。」
「そのようです。」
「では、この石碑は何のためにある。」
「それが分かりません。」
二人は石碑の周囲を調べる。
裏側にも文字はない。
特別な仕掛けもない。
ただ、古い石碑がそこに残っているだけだった。
「……これ以上は分かりませんね。」
キヌヤが立ち上がる。
「神殿へ戻って、記録を調べてみましょう。」
玄灯も頷いた。
「そうするか。」
二人は来た道を戻り始める。
しばらく歩いたところで、キヌヤがふと振り返った。
「……。」
「どうした?」
「いえ。」
キヌヤは石碑のあった方向を見る。
「なんとなく。」
「誰かに見られているような気がしただけです。」
玄灯は周囲を見渡す。
「気配はない。」
「はい。」
キヌヤも頷いた。
「気のせいでしょう。」
二人はそのまま神殿へ戻っていった。




