交流会
朝の騒ぎが落ち着いた頃。
花組は広間に残り、キヌヤへの質問大会になっていた。
「狐って、耳触ったら動く?」
丹奈が聞く。
「動きますよ。」
キヌヤが耳をぴくりと動かす。
「うわ、すごぉぉい!」
「丹奈、近い。」
桜子が丹奈の肩を引く。
その横では雪羽と柳羽が尻尾を眺めていた。
「尻尾って一本?」
「一本です。」
「じゃあ振ってみて。」
「こうですか?」
ふさっ。
「わあ。」
「……紫陽。」
梅依が横を見る。
紫陽は黙っていた。
ただ、尻尾をじっと見ている。
「また触りたいんでしょ。」
「……。」
「図星だ。」
紫陽は否定しなかった。
するとキヌヤが自分から尻尾を少し差し出す。
「触ってみますか?」
紫陽の目がわずかに開く。
「いいの?」
「はい。」
紫陽がそっと手を伸ばす。
ふわ。
指が白い毛に沈む。
「……。」
しばらく無言。
「どう?」
朝佳が聞く。
「……すごい。」
「それしか言わないの?」
「おキヌに触れると語彙が消えちゃってるって!」
丹奈が吹き出した。
「紫陽、完全に溶けてるじゃん。」
「うるさい。」
そう言いながらも、手は尻尾から離れない。
玄灯は呆れた顔で眺めていた。
「昨日まであれほど冷静に指示を出しておった奴とは思えんの。」
「……これは別。」
紫陽は真顔で答えた。
「何が別なんじゃ。」
「もふもふだから。」
「知らん。」
広間にまた笑い声が響く。
その様子を見ていたキヌヤは、少しだけ目を細めた。
「皆さん。」
花組が一斉に顔を向ける。
「こんなに仲が良いんですね。」
「まあね。」
丹奈が答える。
「喧嘩もするけど。」
「すぐ戻るよ。」
朝佳が続ける。
「十人いるから、毎日うるさいですけどね。」
椿希が苦笑する。
キヌヤは花組を見渡した。
その表情には、昨夜までにはなかった柔らかさがあった。
「……そうですか。」
その時。
サクヤヒメが広間へ入ってくる。
「キヌヤ。」
「はい。」
「午後から第七区画について、詳しい報告を聞きます。」
キヌヤの表情が少し引き締まる。
「分かりました。」
花組の空気も変わった。
第七区画。
白い花。
そして、昨夜現れた名もなき在り色。
まだ誰にも話していないことが多すぎる。
丹奈が不思議そうに首を傾げる。
「おキヌ、午後忙しいの?」
「少しだけ。」
「じゃあ終わったらまた尻尾触らせて。」
「……そこなんですね。」
キヌヤが苦笑する。
紫陽も小さく頷いた。
「僕も。」
「紫陽まで。」
キヌヤは困ったように笑う。
しかし。
その笑顔の奥には。
第七区画で見た白い花の光景が、まだ残っていた。




