あだ名
「それで。」
丹奈がキヌヤの周りをぐるぐる回る。
「キヌヤさんって、ずっと第七区画にいたの?」
「はい。」
「一人で?」
「基本的には。」
「寂しくなかった?」
「慣れていましたから。」
「じゃあ今は寂しくないね!」
「どうしてですか?」
「だって花組がいるし!」
丹奈が胸を張る。
キヌヤは少し目を丸くしたあと、ふっと笑った。
「それは……そうかもしれませんね。」
「じゃあ今日からおキヌね。」
「え?」
丹奈が当然のように言う。
「キヌヤだから、おキヌ。」
「そんなにすぐ決めるものなの?」
梅依が苦笑する。
「丹奈は気に入った人にはすぐあだ名付けるから。」
「いいじゃん。おキヌ。」
「おキヌさん。」
雪羽と柳羽も便乗する。
キヌヤは少し困った顔をしながらも、嫌そうではない。
「…好きに呼んでください。」
「やった!」
丹奈が喜ぶ。
その横で紫陽は静かにキヌヤを見ていた。
「紫陽。」
桜子が呼ぶ。
「今度は飛びつかないでよ。」
「分かってる。」
「本当に?」
「……たぶん。」
「たぶんじゃない。」
玄灯が即座に突っ込んだ。
花組から笑いが起こる。
その様子を少し離れた場所から見ていたサクヤヒメは、微笑んでいた。
「随分と馴染むのが早いですね。」
「そうですね。」
キヌヤが答える。
「こんなに賑やかな朝は久しぶりです。」
「そう。」
サクヤヒメはそれ以上何も言わない。
キヌヤは花組へ視線を戻す。
丹奈はまだ尻尾を見ている。
雪羽と柳羽は狐耳について質問している。
椿希は管理者としての仕事について尋ねている。
紫陽は少し離れたところから、尻尾を見ている。
そして玄灯は。
「おぬしら、朝から騒ぎすぎじゃ。」
と言いながら、結局その輪の中にいる。
キヌヤは小さく笑った。
「……ここも。」
「悪くないですね。」
その言葉に、サクヤヒメだけが静かに視線を向けた。
「そうですか。」
それだけだった。




