裏切り者
「……モう、」
「ワタシ一人では止めラレナイからです。」
夜風が吹き抜ける。
白い衣の裾が静かに揺れた。
玄灯は相手から目を離さない。
「止めるとは。」
「何をじゃ。」
人影はしばらく黙っていた。
「亡キ色でス。」
「仲間ではないのか。」
「……モウ違います。」
その返答には迷いがなかった。
「ワタシは。」
「亡キ色を裏切りマシた。」
「ダから。」
「今ハ追われてイマス。」
玄灯は一歩前へ出る。
「なぜ裏切った。」
人影は少しだけ考え、静かに答えた。
「分カラないんでス。」
「気付いたラ。」
「他ノ亡き色と同じように考えラレナクなっていまシタ。」
「花ヲ見て綺麗ダと思っタリ。」
「誰かガ傷付けば苦シイと思ったリ。」
「ソンナ感情が生マレました。」
「最初は異常ダト思いまシタ。」
「デモ。」
「消えなカッタ。」
「ダカら。」
「ワタシは亡き色の中では生きラレなくなりマシタ。」
キヌヤは静かにその話を聞いていた。
「……それで。」
「一人になったんですね。」
人影は小さく頷く。
「ハい。」
「仲間からハ裏切リ者。」
「人間カラ見れば亡キ色。」
「ドチラにも居場所はあリマセん。」
その時。
サクヤヒメが口を開いた。
「あなたは亡き色です。」
その場の空気が静まる。
「感情。」
「意思。」
「倫理観。」
「それらは分類を変える理由にはなりません。」
「亡き色である事実は変わりません。」
人影は否定しなかった。
「…ハイ。」
「分かっていマス。」
「ダから。」
「助ケテほしいとハ言いマセン。」
「タダ。」
「一つだケ伝えに来マシタ。」
玄灯が続きを促す。
「何じゃ。」
「亡き色の中デ。」
「何かガ変わり始メテいます。」
「ワタシにも理由は分カリません。」
「デも。」
「今まデトは明らかに違イます。」
「このままでハ。」
「神域にモ影響が出るかもしれナイ。」
キヌヤが思わず身を乗り出す。
「その『変化』って何なんですか?」
人影は首を横に振る。
「そこマデハ分かりませン。」
「ワタシは追わレル立場になっテカら。」
「あまリ深く近付けなくなりマシタ。」
サクヤヒメは静かに人影を見つめる。
「情報提供のために来たのですね。」
「ハい。」
「それだけデス。」
「信じルカどうかハ。」
「皆さんニ任せマス。」
夜風が再び吹き抜ける。
沈黙が流れる。
玄灯は静かに息を吐いた。
「少なくとも。」
「おぬしの話には嘘は感じん。」
キヌヤも小さく頷く。
「ボクもそう思います。」
しかし。
サクヤヒメだけは変わらない。
「真実を語っていたとしても。」
「あなたが亡き色である事実は変わりません。」
その声はどこまでも淡々としていた。
人影は静かに目を伏せる。
「……ハイ。」
その返事に、悲しみも怒りもなかった。
ただ、受け入れているようだった。




