神殿の門前
門の前。
白い衣の人影は、ただ静かに立っていた。
逃げる様子も。
隠れる様子もない。
「……。」
玄灯は杖を手に取る。
「ここで待っておれ。」
そう言うと広間を出ようとした。
「ボクも行きます。」
キヌヤが立ち上がる。
「駄目じゃ。」
玄灯は振り返る。
「まだ本調子ではなかろう。」
「ですが。」
「儂らに任せておけ。」
キヌヤは小さく頷き、再び腰を下ろした。
サクヤヒメは何も言わず、玄灯と並んで歩き出す。
夜風が白い袖を揺らした。
門へ近付く。
人影は動かない。
月明かりが差し込む。
その姿が少しずつ見えてきた。
白い衣。
顔を覆う布。
細身の体。
そして。
体には深い傷がいくつも残っていた。
「……。」
玄灯は数歩手前で止まる。
「何者じゃ。」
人影はゆっくりと頭を下げた。
敵意のない仕草だった。
「初めマシテ。」
所々拙いが穏やかな声。
「神サマ。」
「玄灯サマ。」
その一言で、玄灯の目が細くなる。
「儂らを知っておるのか。」
「ハい。」
人影は静かに答える。
「知っていマス。」
「ですガ。」
「会うのは初メテです。」
サクヤヒメが一歩前へ出る。
「名を。」
少しの沈黙。
やがて人影は布の奥から答えた。
「……アリません。」
「亡き色に名前はありマセン。」
「そうですか。」
サクヤヒメの表情は変わらない。
「では用件を。」
人影はゆっくり顔を上げた。
「お願いがアリマス。」
「第七区画ヘ。」
「花組を近付けないでクダサイ。」
玄灯が眉をひそめる。
「理由は。」
「……言えマセん。」
「言えぬなら聞けん。」
玄灯が杖を握る。
「それでは納得できぬ。」
人影は俯く。
しばらく迷うように沈黙した後。
小さく口を開いた。
「イマ。」
「亡き色の中デ。」
「何カガおかしいんデス。」
その言葉に。
初めてサクヤヒメの視線がわずかに鋭くなった。
「詳しく話しなさい。」
「……。」
人影は首を横に振る。
「時間がありません。」
「ワタシがここへ来たコトも。」
「もウ知られているハズです。」
「追われておるのか。」
玄灯が問う。
人影は静かに頷く。
「裏切り者ですカラ。」
その言葉を聞いた瞬間。
キヌヤが広間から駆け出してきた。
「待って!」
玄灯が振り返る。
「キヌヤ!」
キヌヤは門の前まで来ると、人影を見て息をのんだ。
「やっぱり……。」
人影は困ったように笑う。
「見ツカっちゃいマシタね。」
「どうしてここへ来たんです?」
「神殿なんて。」
キヌヤの問いに、人影は静かに答えた。
「……モう、」
「ワタシ一人では止めラレナイからです。」




