管理者キヌヤ
神殿へ戻る頃には、夜も更けていた。
広間には花組の姿はない。
皆すでに眠っている時間だった。
サクヤヒメは奥の間へ入る。
玄灯と、白い狐耳の獣人も続いた。
「座りなさい。」
サクヤヒメの言葉に、獣人は静かに腰を下ろす。
長い白い尾が床へ流れる。
疲労は隠せていない。
それでも姿勢だけは崩さなかった。
玄灯は向かいへ座る。
「まずは名を聞こう。」
獣人は一度頭を下げた。
「失礼しました。」
「ボクは、第七区画管理者。」
「キヌヤです。」
「神殿の管理と、第七区画の巡視を任されています。」
玄灯は頷く。
「儂は玄灯。」
「花組の師を務めておる。」
「お会いできて光栄です。」
キヌヤは穏やかに笑った。
「名前だけは以前から聞いていました。」
「サクヤヒメ様の隣には、いつも玄灯様がいると。」
玄灯は少し照れくさそうに咳払いをする。
「様はいらん。」
「玄灯でよい。」
「では。」
キヌヤは柔らかく笑う。
「よろしくお願いします、玄灯…さん。」
短いやり取りを見届けると、サクヤヒメが口を開いた。
「キヌヤ、報告を。」
笑みは消える。
キヌヤは真剣な表情へ戻った。
「はい。」
「異変に気付いたのは約一か月前です。」
「第七区画の祠に、一輪だけ白い花が咲きました。」
「最初は自然現象かと思いました。」
「ですが。」
「日を追うごとに数が増え始めました。」
玄灯は静かに聞いている。
「花を取り除いても。」
「翌日には元へ戻る。」
「焼いても。」
「切っても。」
「結果は同じでした。」
「そこで。」
「ボクは封じの術式を張りました。」
キヌヤは自分の白い手を見る。
「術式のおかげで広がる速度は落ちました。」
「でも。」
「完全には止められませんでした。」
部屋が静まる。
「その間。」
「管理所へ戻る時間も取れず。」
「神殿へ報告することもできませんでした。」
玄灯は腕を組む。
「無理をしたの。」
「はい。」
キヌヤは苦笑する。
「一人で何とかなると思っていました。」
「ですが、甘かったです。」
サクヤヒメは淡々と告げる。
「判断は誤りです。」
「報告を優先すべきでした。」
「……申し訳ありません。」
キヌヤは深く頭を下げる。
責める声ではない。
事実を述べられただけ。
それでもキヌヤは素直に受け止めた。
「もう一つ。」
サクヤヒメが続ける。
「あなたが見た白い衣の者。」
「知っていることを全て話してください。」
キヌヤはゆっくり息を吸う。
そして。
少しだけ迷うように目を伏せた。
「……その人は。」
「元、亡き色です。」
その一言で。
部屋の空気が変わった。




