表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花の想ひ出  作者: 栖旅アヲ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
74/75

白い影

「追う。」


紫陽が短く言った。


「待て。」


玄灯が制する。


「相手の正体も分からん。」


「でも。」


丹奈が一歩踏み出そうとする。


「見失っちゃうよ!」


「だからこそじゃ。」


玄灯は杖を前へ向ける。


「全員で動く。」


桜子が頷いた。


「二列。」


「朝佳、前方。」


「紫陽、後方を見て。」


「了解。」


朝佳は弓を構え、周囲へ視線を巡らせる。


紫陽は最後尾に回る。


雪羽と柳羽は左右を警戒しながら歩く。


建物の外へ出る。


森は静まり返っていた。


さっきまで聞こえていた風の音さえ、遠く感じる。


「どこ。」


雪羽が小声で言う。


返事はない。


「足跡。」


梅依が地面を指差した。


柔らかい土の上。


新しい足跡が一つ。


裸足だった。


「人間?」


菊音が呟く。


玄灯はしゃがみ込み、足跡を見る。


「……浅い。」


「え?」


「体重がほとんど乗っておらん。」


その言葉に全員が顔を見合わせる。


「歩いた跡じゃないの?」


丹奈が聞く。


玄灯は立ち上がる。


「分からん。」


「だが普通ではない。」


足跡は一本だけ続いている。


木々の間を抜け。


小さな丘へ向かっていた。


花組は慎重に後を追う。


やがて丘の上へ出る。


そこには一本の大樹が立っていた。


幹は何人で囲んでも足りないほど太い。


枝は空を覆い隠すほど広がっている。


「大きい……。」


朝佳が思わず声を漏らした。


その根元。


白い衣をまとった人影が立っていた。


後ろ姿だけが見える。


長い白髪。


細い背中。


ゆっくりと木に手を添えている。


「あなたは。」


桜子が呼び掛ける。


人影は振り返らない。


玄灯が一歩前へ出る。


「第七区画の管理者か。」


沈黙。


返事はない。


「聞こえておるなら答えよ。」


玄灯の声が森へ響く。


その瞬間。


人影の肩がわずかに動いた。


ゆっくり。


本当にゆっくりと。


こちらを振り向く。


しかし。


顔は見えなかった。


白い布で覆われていた。


「……。」


花組の誰も声を出せない。


人影は何も言わない。


ただ。


右手を静かに持ち上げる。


指差した先。


そこには。


一本だけ。


白い花が咲いていた。


そして次の瞬間。


人影の姿は。


霧が晴れるように静かに消えた。


「消えた……。」


雪羽が息をのむ。


玄灯は人影が立っていた場所まで歩く。


そこには誰もいない。


足跡もない。


残されていたのは。


一本の白い花と。


木の幹に刻まれた、小さな文字だけだった。


『まだ 目覚めるな』


玄灯はその文字を見つめたまま、静かに目を細めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ