区画
花組は神殿の門前に集まっていた。
いつもの巡回とは違う。
武器を持つ手。
表情。
空気。
全員が理解していた。
今日はただ歩くだけではない。
「忘れ物はないか。」
玄灯が確認する。
「大丈夫。」
桜子が答える。
細剣。
装備。
必要な道具。
全員が確認を終えている。
サクヤヒメが前へ出る。
「第七区画は、これまでの場所とは少し違います。」
「道も整備されていません。」
「結界の流れも不安定です。」
「ただ。」
一瞬だけ間を置く。
「皆さんなら対応できると判断しました。」
花組は少し驚いた。
サクヤヒメがそんな言い方をするのは珍しい。
しかし。
その言葉の奥にあるものを。
玄灯だけは理解していた。
信頼ではない。
必要だから。
任せられると判断しただけ。
「行くぞ。」
玄灯の声で歩き出す。
第七区画への道は、今までとは違った。
森は深い。
鳥の声も少ない。
祠も見えない。
ただ。
神域特有の静けさだけがあった。
「変な感じ。」
雪羽が周囲を見る。
「音が少ない。」
「気のせいじゃない。」
朝佳が答える。
「生き物の気配が少ない。」
蓮唯が周囲を確認する。
「避けている?」
「たぶん。」
紫陽が頷く。
「何か理由がある。」
しばらく進むと。
古い門が見えた。
半分崩れた石の門。
その奥に、第七区画が広がっている。
「ここから先。」
玄灯が止まる。
「勝手に離れるな。」
全員が頷く。
門をくぐった瞬間。
空気が変わった。
重い。
けれど赤い印の場所とは違う。
押し潰されるような神の気配ではない。
何かが。
ここに残っているような感覚。
「……。」
桜子は周囲を見る。
「誰かいますか?」
返事はない。
少し進む。
すると。
小さな建物が見えた。
管理所。
しかし。
扉は開いていた。
「不用心。」
梅依が呟く。
紫陽が手で制止する。
「待って。」
地面を見る。
足跡。
一人分。
建物の中へ続いている。
そして。
途中で途切れていた。
「消えた?」
丹奈が眉をひそめる。
「そんなわけ……。」
その時。
建物の奥から。
カタン。
小さな音がした。
全員が武器へ手を伸ばす。
桜子が細剣を構える。
「誰ですか。」
沈黙。
もう一度。
カタン。
今度は近い。
玄灯が前へ出ようとした。
その瞬間。
紫陽が低く言う。
「待って。」
「何か違う。」
全員が見る。
建物の奥。
そこにあったのは。
人影ではなかった。
古い札。
破れた記録。
そして。
本来なら消えているはずの。
白い花。
第七区画にも。
同じ花が咲いていた。




