招集
白い花を確認してから三日。
花組はいつも通り修行と巡回を続けていた。
異常はない。
祠にも変化はない。
白い花も、それ以上増えることはなかった。
その静けさが、逆に不気味だった。
その日の夕方。
花組が食堂へ向かおうとした時だった。
コン。
コン。
コン。
神殿中へ、鐘の音が三度響く。
今まで聞いたことのない音だった。
「……何?」
雪羽が足を止める。
朝佳も眉をひそめる。
「初めて聞いた。」
玄灯が広間の入口に立っていた。
「食事は後じゃ。」
その声はいつもより低い。
「全員、広間へ。」
誰も冗談を言わなかった。
花組は急いで広間へ集まる。
中央にはサクヤヒメが立っていた。
笑顔は変わらない。
しかし空気だけが違う。
「皆さん。」
「予定を変更します。」
静かな声だった。
「本日より、第一区画から第六区画までの巡回を一時中止します。」
ざわめきが起こる。
「え?」
丹奈が思わず声を漏らす。
「じゃあ何するの?」
サクヤヒメは答える。
「第七区画へ向かいます。」
広間が静まり返る。
玄灯が地図を広げた。
第七区画。
花組がまだ一度も足を踏み入れたことのない場所。
「本来。」
サクヤヒメが続ける。
「皆さんを連れて行く予定は、もう少し先でした。」
「ですが。」
「予定を少し早めます。」
桜子が顔を上げる。
「何かあったんですか。」
「ありました。」
即答だった。
サクヤヒメは隠さない。
「第七区画との連絡が途絶えました。」
「……連絡?」
菊音が聞き返す。
「誰かいるの?」
「います。」
その一言で空気が変わる。
花組は互いに顔を見合わせた。
神殿には。
自分達しかいないと思っていた。
「神殿の管理を担う者が一人。第七区画を管理しています。昨日から報告がありません。」
玄灯が地図を指した。
「まず確認じゃ。」
「戦闘を目的とするな。」
「状況を見ろ。」
紫陽が静かに尋ねる。
「もし異常があったら。」
玄灯は迷わず答えた。
「その時は、その場で判断する。」
「……。」
花組全員の表情が引き締まる。
新しい区画。
初めて聞く管理者。
そして。
初めての”連絡が途絶えた”という異常。
「出発は明朝。」
サクヤヒメが締めくくる。
「今日は各自、装備の確認を済ませてください。」
誰も軽口を叩かなかった。
広間を出た後も。
さっきまでの日常は、もうどこにもなかった。




