骸華
空気が変わった。
さっきまでの亡き色とは違う。
ズン、とのしかかるような圧がかかる。
息が詰まる。
骸華はゆっくりこちらを見る。
顔はあった。
でも、目も口もない。
黒い布を人型に縫い合わせたみたいな身体。
その輪郭から、灰色の花弁が絶えず零れている。
「……なに、あれ」
梅依が小さく呟く。
サクヤヒメが静かに答えた。
「亡き色が集まり、形を得た存在です」
「つまり強いやつ?」
丹奈が聞く。
「はい」
「うわ最悪」
椿希が刀を握り直した。
その瞬間。
骸華が消えた。
「え」
速い。
次の瞬間には、桜子の目の前にいた。
「っ!」
細剣を上げる。
ガンッ!!
衝撃。
桜子の身体が後ろへ吹き飛んだ。
地面を滑る。
「桜子!」
椿希が飛び出す。
深紅の刀が走る。
でも。
ガキンッ!!
止められた。
骸華の腕だった。
黒い。
硬い。
「は?!」
椿希の顔が歪む。
今までの亡き色とは感触が違う。
骸華が腕を振る。
椿希が弾き飛ばされた。
「っ、ぁ……!」
空中で体勢を崩す。
そこへ。
白銀のワイヤーが伸びた。
雪羽。
「椿!」
ワイヤーが椿希の腕へ巻きつく。
引く。
しゅるっ!! と身体が引き寄せられる。
その勢いのまま、柳羽が前へ出た。
薙刀が唸る。
ザンッ!!
骸華の肩が裂ける。
黒い花弁が散った。
でも浅い。
「硬っ……!」
柳羽が顔をしかめる。
骸華が腕を振る。
空気が裂ける音。
柳羽が後ろへ飛ぶ。
ギリギリだった。
頬から赤い花弁が一枚、零れる。
全員の動きが止まった。
「……今」
雪羽の声が少し震える。
柳羽本人も頬を触った。
傷。
浅い。
でも。
赤い雪柳の花弁が落ちた。
「怪我すると出るんだ」
朝佳が小さく言う。
骸華が再び動く。
今度は速かった。
「散れ!!」
丹奈が大槌を振り下ろす。
轟音。
地面が砕ける。
でも骸華は、その衝撃の中を突っ切ってきた。
「うそっ」
黒い腕が丹奈へ伸びる。
その瞬間。
黄色い花弁が割り込んだ。
菊音。
鉄扇が骸華の腕を受け流す。
身体を回す。
舞う。
黄色い花弁が円を描く。
遅れて骸華の腕へ無数の裂傷が走った。
黒い花弁が舞う。
「下がって」
菊音が静かに言う。
珍しく声が強かった。
その横。
梅依が低く走る。
白梅色の爪。
地面すれすれ。
一気に懐へ潜り込む。
突き刺す。
ギンッ!!
止められた。
「っ?!」
骸華の手が、鉤爪を掴んでいた。
黒い花弁がぱらぱら落ちる。
近い。
骸華の顔が。
目も口もないのに、“見られてる”感じがした。
「梅依!」
桜子が飛び込む。
桜色の細剣。
一閃。
骸華が後ろへ跳ぶ。
梅依が息を吐いた。
「……ありがと」
「あとでね」
桜子は前を見る。
骸華はまだ立っている。
斬っても。
砕いても。
倒れない。
サクヤヒメが静かに呟いた。
「初戦にしては十分でしょう」
「は?」
椿希が振り返る。
「まさか倒せとか言わないよね?」
サクヤヒメは否定しなかった。
全員の顔が固まる。
その時。
骸華の身体が膨らんだ。
黒い花弁が周囲へ舞い上がる。
嫌な予感がした。
「……逃げて」
紫陽がぽつりと言った。




