門の奥
門の向こうで、何かが蠢いた。
ぐちゃり。
湿った音。
さっきまでの亡き色とは違う。
空気が重い。
「……増えた?」
桜子が細剣を握り直す。
暗闇の中から、ゆっくり影が現れる。
一体。
二体。
三体。
「いや多くない?!」
丹奈が引きつった声を出す。
亡き色たちは形が微妙に違った。
腕が異様に長いもの。
顔が割れているもの。
逆に、人間に近すぎるもの。
黒い身体のあちこちから灰色の花弁が零れている。
「これ全部倒すの?」
朝佳が小さく呟く。
サクヤヒメは静かに答えた。
「はい」
「はい、じゃないんよ……」
椿希が額を押さえる。
その瞬間。
亡き色が一斉に動いた。
「来る!」
桜子が駆け出す。
桜色の細剣が夜を裂く。
空中で一回転。
斬撃に合わせて桜色の花弁が散った。
亡き色の腕が切断される。
黒い花弁が吹き上がる。
「うわ、ほんとに切れる……!」
でも止まらない。
別の亡き色が桜子へ飛びかかる。
「桜子!」
椿希が割って入った。
紅黒の刀が横薙ぎに走る。
ザッ!!
亡き色の胴が裂ける。
黒い花弁が雨みたいに降った。
「前見ろって!」
「ありがと!」
その横。
菊音が静かに扇を開く。
黄色の鉄扇。
花みたいに広がる刃。
身体を回す。
長い袖が舞う。
遅れて黄色い花弁が円を描いた。
次の瞬間。
囲んでいた亡き色たちの身体がまとめて崩れる。
「……便利」
梅依が引いた顔をした。
「菊音怖」
「失礼」
菊音は真顔だった。
その時。
後方から亡き色が朝佳へ迫る。
朝佳は咄嗟に距離を取る。
弓を引く。
橙色の花弁が集まる。
一射。
額を貫く。
黒い花弁が弾けた。
でも。
「っ」
別の亡き色がすぐ横にいた。
近い。
朝佳が息を呑む。
ガンッ!!
深紅の大槌が横から叩き込まれた。
亡き色が吹き飛ぶ。
「ぼーっとしてると死ぬよ!」
丹奈が笑う。
「今の絶対死ぬやつだった……」
朝佳が青ざめる。
その上空。
白銀の線が走った。
「柳羽!」
「落とすなよ!」
雪羽のワイヤーが空中へ張られる。
二人の身体が一気に加速した。
しゅるるるるっ!!
空中を滑る。
亡き色の群れを飛び越えながら、柳羽が薙刀を振る。
黒い花弁が吹雪みたいに舞った。
着地した瞬間、雪羽が笑う。
「今の見た?!」
「前向いて」
柳羽は即答だった。
その奥。
紫陽が静かに歩く。
青紫の衣装が揺れる。
亡き色が近づく。
でも紫陽は逃げない。
鎌を振る。
ただ、それだけ。
ザァッ。
一瞬遅れて。
亡き色の身体が、音もなく崩れ落ちた。
「……なんかさ」
桜子が引き気味に言う。
「紫陽だけベテラン感ない?」
「分かる」
椿希が頷く。
紫陽本人は少し困った顔をした。
「だから知らないって」
その時。
蓮唯の鞭がしなる。
水色の軌道。
有刺鉄線のような棘が亡き色へ食い込む。
巻きつく。
締まる。
亡き色の身体が軋む。
先端の刃が滑るように走った。
ザシュッ。
黒い花弁が静かに零れる。
蓮唯は表情を変えない。
その静かさが逆に怖かった。
戦っている。
全員が。
花弁を散らしながら。
なのに。
どこか現実感がなかった。
夏祭りの続きみたいな感覚が、まだ少し残っている。
でも。
その感覚は次の瞬間、壊れる。
門の奥。
暗闇のさらに向こうで。
ゆっくりと、“人の形”をした何かが立ち上がった。
今までの亡き色より大きい。
黒い。
でも輪郭がはっきりしている。
まるで。
喪服を着た人間みたいだった。
サクヤヒメが初めて目を細める。
「……骸華。」




