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花の想ひ出  作者: 栖旅アヲ


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5/22

花の形

黒い花弁が地面へ散る。


亡き色は裂けた身体を揺らしながら、それでもこちらへ向かってきた。


「まだ動くの?!」


丹奈が顔をしかめる。


「気持ち悪っ…」


椿希は刀を構え直した。


紅黒の刃。


柄まで椿みたいに深い赤で統一されている。


その時、ふわりと服の裾が揺れた。


「……え?」


椿希が自分の姿を見下ろす。


さっきまで着ていた浴衣が変わっていた。


黒を基調にした戦闘衣装。


だけど完全な和装じゃない。


スカートは花弁みたいに重なり、袖はひらひらしている。


魔法少女みたいなシルエットなのに、帯や袖口には浴衣の名残みたいな和柄が残っていた。


赤い飾り紐が揺れる。


「ちょ、服変わってるんだけど?!」


「うわほんとだ」


桜子が思わず声を上げる。


自分の衣装も変わっていた。


淡い桜色と白を基調にした軽いドレス風。


でも腰には帯が巻かれていて、袖も少し浴衣っぽい。


スカートの裾は桜の花弁みたいに広がっている。


手には桜色の細剣。


細く軽い刃だった。


「え、さっきまで普通に祭りいたよね?なのにいつの間にかこんな場所に来てあの化け物が...」


「夢じゃないよなこれ」


丹奈が笑いながらも周囲を見る。


丹奈自身も変わっていた。


深紅と黒の衣装。


牡丹みたいに大きな飾りが腰に咲いている。


その手には巨大な大槌。


「いや、重っ」


なのに普通に持てる。


亡き色が地面を蹴る。


速い。


「来る!」


朝佳が弓を構えた。


薄橙色の衣装。


長い袖が風で揺れる。


夏祭りの浴衣に少し似た柄が残っていた。


弦を引いた瞬間、橙色の花弁が集まり、矢になる。


放つ。


ヒュッ、と細い音。


亡き色の肩が貫かれた。


傷口から黒と灰色の花弁が吹き出す。


「うわ」


朝佳が自分で引いていた。


「当たった……」


「ナイス!」


桜子が叫ぶ。


亡き色がよろめく。


その横から丹奈が突っ込んだ。


「どいて!」


深紅の大槌が振り下ろされる。


ゴッ!! と鈍い音。


亡き色の上半身が地面へ叩きつけられた。


衝撃で黒い花弁が舞い上がる。


「結構楽しいかも」


「慣れるの早」


菊音が呆れた声を出す。


黄色を基調にした衣装。


袖が舞踊衣装みたいに長く、帯には菊模様。


黄色い鉄扇が開く。


花みたいに広がる金色。


菊音が身体を回す。


舞うみたいに。


すると扇から散った黄色い花弁が、遅れて亡き色の身体を切り裂いた。


ザザッ。


黒い花弁が崩れる。


「……なんか思ったより戦えてる」


「それな」


椿希が刀を肩に乗せる。


紅黒のリボンが揺れた。


その後ろ。


梅依が静かに亡き色へ近づいていた。


白梅色の衣装。


小さい花みたいなフリル。


指先には長い鉤爪。


細く鋭い爪先が光る。


亡き色が振り返る。


でも遅い。


梅依は一瞬で懐へ入った。


突き刺す。


爪が亡き色の胸を貫いた。


そのまま引き裂く。


黒い花弁が一気に零れ落ちた。


「うわっ……」


梅依自身が少し引いていた。


「普通に刺さるんだ……」


「いや怖」


柳羽が呟く。


柳羽と雪羽の衣装は少し似ていた。


白と薄緑。


浴衣の帯みたいな装飾と、雪みたいな模様。


並ぶと双子だとすぐ分かる。


その瞬間。


別の亡き色が一気に距離を詰めてくる。


「雪羽!」


柳羽が叫ぶ。


「分かってる!」


雪羽が腕を振る。


白銀のワイヤーが夜空へ走った。


ピン、と一直線に張られる。


次の瞬間。


雪羽の身体が勢いよく前へ飛んだ。


「うわっ、速?!」


桜子が声を上げる。


雪羽は空中で身体を捻る。


その背中を柳羽が掴んだ。


そのまま二人まとめて宙を滑る。


しゅるるるるっ!! とワイヤーが鳴る。


亡き色の頭上を一気に通過。


柳羽が薙刀を振り抜いた。


ザンッ!!


黒い花弁が吹き上がる。


着地。


ほぼ同時。


「……今の何?」


梅依が呆然とする。


「ジェットコースター」


雪羽が笑った。


「怖いからやめて」


柳羽は真顔だった。


でも息はぴったりだった。


その奥。


紫陽が静かに鎌を持ち上げる。


青紫の衣装。


浴衣の柄みたいに紫陽花が散っている。


大鎌の刃が鈍く光る。


亡き色が近づく。


紫陽は避けない。


静かに鎌を振った。


ザァッ。


一瞬遅れて、亡き色の身体が斜めに崩れた。


黒い花弁が霧みたいに舞う。


「……強ぉ」


丹奈が引く。


「紫陽絶対強いじゃん」


「なんか勝手に動いただけ」


紫陽は少し眉を寄せた。


その時。


蓮唯の足元を黒い影が這う。


亡き色。


気づけばすぐ後ろまで来ていた。


でも蓮唯は慌てない。


水色の衣装。


透明感のある布が水面みたいに揺れる。


棘付きの鞭がしなる。


先端の刃が黒く光る。


鞭が亡き色の首へ巻きついた。


締まる。


亡き色の身体が軋む。


そのまま蓮唯が軽く腕を引く。


ザシュッ。


刃が通り抜ける。


黒い花弁が静かに落ちた。


誰も少し喋れなかった。


さっきまで夏祭りではしゃいでいた。


りんご飴を食べて、写真を撮って、笑っていた。


なのに今は。


花弁を散らしながら化け物と戦っている。


サクヤヒメだけが静かにその様子を見ていた。


「適応速度は良好ですね」


「いや他人事みたいに言うなよ」


椿希が即座に返す。


その時だった。


門の奥。


暗闇のさらに向こうで。


何かが動いた。

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