表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花の想ひ出  作者: 栖旅アヲ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/22

開華

足元に広がった模様は、床に染み込むように描かれていく。


円。


花。


見たこともない紋様。


淡く揺れながら、蔵の床いっぱいに広がっていく。


「ちょ、なにこれ」


丹奈が後ろへ下がる。


けれど、もう遅かった。


視界が白く霞む。


反射的に桜子は目を閉じた。


風が吹く。


蔵の中なのに。


花の匂いがした。


春みたいな。


でも少し冷たい匂い。


耳鳴り。


遠くで誰かが何かを言っている。


次の瞬間。


静かになった。


桜子がゆっくり目を開ける。


「……は?」


空があった。


夜空。


でも、祭りの夜とは違う。


星が近い。


近すぎる。


空そのものが透けているみたいだった。


地面は白い石でできていた。


見渡す限り、何もない。


遠くに巨大な花の木みたいなものが見える。


枝が空まで伸びていた。


「え、え、え」


梅依が完全に固まっている。


「どこ、ここ」


「外?」


朝佳が辺りを見回す。


でも違う。


外というより、“世界そのものが違う”。


空気が軽い。


音が変に響く。


それに、色が濃すぎた。


夜なのに、花の色だけ妙に鮮やかに見える。


「うわぁ……」


雪羽が目を輝かせる。


「なにここ、すご」


「はしゃぐなって」


柳羽は言いながらも、少し楽しそうだった。


丹奈が振り返る。


「蔵は?」


なかった。


さっきまでいた蔵も、祭りの音も、町も。


全部消えている。


代わりに、後ろには巨大な門が立っていた。


古い鳥居みたいな形。


ただ、その奥は真っ暗だった。


光すらない。


「天界の外れです」


後ろから声がした。


全員が振り返る。


サクヤヒメだった。


さっきと変わらない表情で立っている。


風もないのに、髪だけが揺れていた。


「……ほんとに来ちゃったんだ」


紫陽が小さく言う。


誰も否定できなかった。


ここはもう、元の世界じゃない。


「亡き色は、この先に現れます」


サクヤヒメが門の向こうを見る。


「本来ならば、もっと早く花は集められる予定でしたが」


「集めるって言い方やめてくれる?」


椿希が眉をひそめた。


サクヤヒメは視線だけ向ける。


「事実です」


「感じ悪…」


「つーかさ」


丹奈が前へ出る。


「うちら、帰れんの?」


少しだけ空気が止まった。


サクヤヒメはすぐ答えた。


「役目を終えれば」


その言い方が妙に引っかった。


でも、深く考える暇はなかった。


門の奥。


暗闇が、揺れた。


ぐちゃり、と。


何かを踏み潰したような音。


黒い影が、ゆっくり現れる。


さっき蔵にいたものより大きい。


人型。


でも腕が異様に長い。


顔がない。


その輪郭は煙みたいに崩れている。


梅依が息を呑む。


「……いた」


亡き色。


それがこちらを向いた瞬間。


ぞわ、と背筋が冷える。


見られた。


そう分かった。


「うわ、普通にキモい」


椿希が前へ出る。


怖がっているくせに、隠そうともしない。


「椿」


桜子が呼ぶ。


「平気平気」


そう言って笑った瞬間。


亡き色が消えた。


「え」


次の瞬間には、目の前にいた。


「っ!!」


椿希が反射的に腕を上げる。


ガンッ!! と衝撃が響いた。


でも、痛みは来なかった。


代わりに、赤い椿の花弁が空中へ散った。


椿希自身が一番驚いていた。


腕を守るように、赤黒い色が集まっていく。


色は液体みたいに揺れながら、一本の形を作った。


細い。


鋭い。


気づけば、椿希の手には刀が握られていた。


深い紅色。


椿の花みたいな色だった。


「…は?」


椿希が呆然と呟く。


「何それ」


「なんで刀?!」


花組が騒ぐ中。


サクヤヒメだけは静かだった。


「適合しましたか」


当然みたいに言う。


椿希は刀を見る。


それから亡き色を見る。


数秒。


そして。


「……ちょっとテンション上がるかも」


笑った。


亡き色が再び腕を振り上げる。


椿希は反射的に刀を振った。


ザッ。


思ったより軽い音だった。


亡き色の腕が斜めに裂ける。


その傷口から、黒い花弁がぼろぼろと零れ落ちた。


灰色の混ざった、汚れた花弁。


地面に落ちた瞬間、砂みたいに崩れて消える。


「……え」


椿希が固まる。


亡き色も数歩よろめいた。


切れてる。


本当に。


「やば」


雪羽が目を見開く。


「普通に戦えてるじゃん」


亡き色が低く唸る。


輪郭が揺れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ