区画巡回
赤い印の話から数日。
花組は巡回にも慣れ始めていた。
「第三区画、異常なし。」
朝佳が地図へ印を付ける。
「祠も問題なし。」
桜子が静かに頷く。
「次へ行こう。」
十人は森の中を歩く。
最初の頃は周囲を見渡すだけで精一杯だった。
しかし今は違う。
木々の並び。
祠の位置。
道の傾き。
少しの違和感にも自然と目が向くようになっていた。
「待って。」
紫陽が足を止める。
全員も止まる。
「どうした?」
丹奈が聞く。
紫陽は地面を指差した。
「昨日までなかった。」
そこには小さな亀裂が一本入っていた。
祠へ続く石畳。
その端が少しだけ欠けている。
「これって。」
梅依がしゃがみ込む。
「自然にできたのかな。」
「分からない。」
紫陽は首を横に振る。
「でも記録しておく。」
桜子も頷いた。
「異常かどうか分からなくても、見つけたものは全部伝えよう。」
「そうだね。」
菊音が笑う。
「前だったら気にもしてなかったかも。」
「成長したってこと?」
雪羽が言う。
「少しは。」
椿希が答えた。
その後も巡回は続く。
倒れかけた木。
少し欠けた石灯籠。
乾き始めた湧き水。
以前なら見過ごしていた小さな変化を、一つ一つ確認していく。
夕方。
神殿へ戻る。
玄灯は報告書を受け取ると、一枚ずつ目を通した。
「ふむ。」
「石畳の亀裂。」
「灯籠の欠け。」
「湧き水の減少。」
「全部書いてあるな。」
「異常か分からなかったので。」
桜子が答える。
玄灯は報告書を閉じた。
「それでよい。」
花組は少し意外そうな顔をする。
「異常かどうかを決めるのは、おぬしらではない。」
「見つけること。」
「伝えること。」
「それが役目じゃ。」
その言葉に。
柳羽が静かに頷いた。
「私達は判断する人じゃない。」
「異変を見逃さない人。」
「そういうこと。」
玄灯は短く答える。
その時。
サクヤヒメが広間へ入ってきた。
玄灯から報告書を受け取る。
一枚。
また一枚。
静かに目を通していく。
「よく見ていますね。」
その一言だけだった。
褒めるでもなく。
感情を大きく表すでもない。
事実として評価する。
「この程度の変化に気付けるのであれば。」
「次の区画も任せられます。」
花組は顔を見合わせた。
一歩。
また一歩。
少しずつ。
修行だけの日々から、本当の役目へ近付いていた。




