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花の想ひ出  作者: 栖旅アヲ


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赤の場所

第一区画の巡回。


それが新しい役目の始まりだった。


花組の十人は、地図を片手に神殿周辺を歩いていた。


「思ったより普通だね。」


雪羽が周囲を見る。


「もっと危ない場所かと思ってた。」


「結界の内側だからねー」


朝佳が答える。


「異常がない限りは普通に見える。」


桜子は頷く。


森。


川。


小さな祠。


どこにでもありそうな景色。


けれど。


ここ全てが、神殿によって守られている場所なのだ。


「この辺りは問題なし。」


紫陽が地図へ印をつける。


「次へ行こう。」


その時。


梅依が足を止めた。


「……あれ。」


全員が見る。


木々の間。


遠くに、小さな石碑が見えた。


地図には載っていない。


「サクヤヒメ様の地図にはなかった。」


菊音が呟く。


「近付いていいのかな。」


雪羽が言う。


紫陽が周囲を見る。


「待って。」


「何か変。」


近付いてはいけない。


そう感じる。


理由は分からない。


でも。


身体が自然に止まる。


「これ。」


朝佳が目を細める。


石碑の根元。


赤い印が刻まれていた。


「……。」


誰も声を出さなかった。


あの地図にあった赤い印。


「ここが。」


椿希が小さく言う。


「立入禁止の場所?」


その瞬間。


背後から声がした。


「そこから先へは進むな。」


玄灯だった。


いつの間にか後ろに立っていた。


「玄灯。」


桜子が振り返る。


「これは……。」


「赤い印じゃ。」


玄灯は石碑を見る。


「この先は神域の中心に近い。」


「入ったらどうなるの?」


丹奈が聞く。


玄灯は少し黙った。


「人間ではいられなくなる。」


空気が変わる。


「死ぬってこと?」


梅依が聞く。


玄灯は首を横に振る。


「それとも違う。」


「まず、自分というものが薄れていく。」


花組全員が黙る。


「記憶。」


「考え。」


「己という輪郭。」


杖を握る手に力が入る。


「それが消えていく。」


「そして精神が耐えられなくなる。」


「最後には肉体も保てず、その存在そのものが神域へ溶ける。」


「人間の器は神の存在量に耐えられん。」


雪羽の表情が固まる。


「……怖い。」


玄灯は否定しなかった。


「人間にとってはな。」


その言葉が妙に引っ掛かった。


「じゃあ。」


桜子が聞く。


「サクヤヒメ様は?」


玄灯は赤い印を見る。


「神だから平気じゃ。」


簡単な答えだった。


「同じ場所でも、人間と神では見えるものも、耐えられるものも違う。」


花組は何も言えなかった。


今まで。


サクヤヒメは自分達を導いてくれる存在だった。


優しく。


穏やかで。


遠い存在ではあったけれど。


今初めて。


本当の意味で。


神と人の距離を感じた。


「戻るぞ。」


玄灯が言う。


「ここは今のおぬしらが知る場所ではない。」


花組は頷く。


誰も赤い印を越えなかった。


その夜。


サクヤヒメは報告を聞いた。


「赤い印を見ましたか。」


「はい。」


玄灯が答える。


サクヤヒメは静かに頷く。


「見ただけならば問題ありません。」


「……問題ない?」


玄灯が見る。


サクヤヒメは不思議そうに返した。


「ええ。」


「人間が入れば消える。」


「それだけです。」


その声には恐怖も悲しみもない。


ただ。


事実を述べているだけだった。

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