役目と印
翌朝。
まだ日が昇りきる前。
花組の十人は広間へ集められていた。
「眠い……。」
雪羽が目をこする。
「今日早くない?」
「いつもより一時間早い。」
朝佳が窓の外を見る。
空はまだ薄暗い。
玄灯はいつものように柱にもたれ、腕を組んでいた。
その隣へ、サクヤヒメが歩み出る。
「皆さん。」
穏やかな声が広間に響く。
「昨日お話しした、新しい役目です。」
全員の表情が変わる。
「皆さんには、これから神殿周辺の結界を定期的に巡回していただきます。」
「巡回?」
桜子が聞き返す。
「はい。」
サクヤヒメは頷く。
「祠だけではありません。」
「結界には異常が現れる前兆があります。」
机の上へ、一枚の古い地図が広げられる。
神殿を中心に、いくつもの印が描かれていた。
「これが結界の範囲です。」
「広ぉ〜」
丹奈が思わず声を漏らす。
「全部歩くの?」
「一日ではありません。」
サクヤヒメが答える。
「区画ごとに巡回します。」
紫陽は地図へ目を向ける。
「結構細かく分かれてる。」
「はい。」
サクヤヒメは頷く。
「管理しやすいよう、昔からいくつかの区画に分けられています。」
「今回は皆さんが十人なので、それぞれ担当を割り振ります。」
玄灯が杖で地図を軽く叩く。
「覚えろ。」
「地図がなくても歩けるくらいにな。」
「また覚えるの?」
雪羽が肩を落とす。
「苦手なんだけど……。」
「だから覚える。」
玄灯は一言で終わらせる。
その時。
梅依が地図の端を指差した。
「ここだけ印の色が違う。」
全員が見る。
確かに。
一か所だけ、赤い印になっていた。
「そこは?」
梅依が尋ねる。
サクヤヒメは少しだけ視線を向ける。
「現在は巡回しません。」
「まだ皆さんには早い場所です。」
「何があるんですか?」
菊音が聞く。
「今は知る必要はありません。」
答えは短かった。
それ以上は説明しない。
玄灯も何も言わない。
「では。」
サクヤヒメは地図を丸める。
「今日は第一区画を覚えていただきます。」
「戦闘ではありません。」
「ですが。」
穏やかな笑みのまま続ける。
「道を間違えれば、役目は果たせません。」
花組はそれぞれ頷いた。
戦うことだけが役目ではない。
この神殿を知ること。
結界を知ること。
それも花組の務めなのだと。
そして。
机の上から片付けられた地図を見ながら。
赤い印だけが。
誰の記憶にも静かに残っていた。




