神の視線
神殿へ戻った夜。
花組の十人は食堂に集まっていた。
今日の出来事を話しながら、いつものように食事をしている。
「最後、ほんと危なかったよね。」
雪羽が箸を止める。
「丹奈が吹き飛ばされた時、心臓止まるかと思った。」
「大げさ。」
丹奈が笑う。
「ちゃんと立てたし。」
「立てたというか、転がった。」
椿希が言う。
「それは言わない約束。」
いつもの会話。
いつもの空気。
けれど。
少し離れた場所で。
サクヤヒメはそれを見ていた。
優しい表情。
穏やかな微笑み。
誰が見ても。
慈愛に満ちた神に見える。
「楽しそうですね。」
玄灯が隣に立つ。
サクヤヒメは頷いた。
「ええ。」
「良い子達です。」
玄灯は少し黙る。
「……良い子、か。」
その言葉に。
サクヤヒメは振り返る。
「何か?」
「いや。」
玄灯は目を細める。
「おぬしは、本当にそう思っているのかと思っただけじゃ。」
一瞬。
沈黙。
サクヤヒメの表情は変わらない。
「思っていますよ。」
「嘘ではありません。」
「ただ。」
サクヤヒメは食堂を見る。
笑い合う十人。
「人間として見れば。」
「とても良い子達です。」
玄灯は何も言わない。
「ですが。」
サクヤヒメは続ける。
「神の視点では違います。」
「役目を果たせるか。」
「必要な力を持っているか。」
「それだけです。」
声は優しい。
けれど。
言葉には温度がなかった。
「もし。」
玄灯が聞く。
「今日、誰か一人でも死んでいたら。」
サクヤヒメは少し考える。
「…悲しむでしょうね。」
「ですが。」
間を置く。
「必要なら、また探すだけですので。」
玄灯の目が細くなる。
「……やはりか。」
「何がですか?」
「人間を道具として見ておる。」
サクヤヒメは否定しなかった。
「神と人は違います。」
「人間は短い時間しか生きられない。」
「一人の命に執着していては、長い時を守れません。」
淡々としていた。
「花組が十人死んでも。」
「次の十人を選ぶだけです。」
その言葉は。
あまりにも自然だった。
悪意がない。
だからこそ。
玄灯には重く聞こえた。
「おぬしは。」
「本当に神なのじゃな。」
サクヤヒメは微笑む。
「褒め言葉でしょうか。」
「いや。」
玄灯は食堂を見る。
楽しそうに笑う花組。
「少し怖いという意味じゃ。」
その夜。
花組の十人は知らない。
自分達がどう見られているのか。
知らないまま。
明日の修行の話をしていた。
「次は何するんだろ。」
「また玄灯の無茶じゃない?」
「絶対そう。」
笑い声。
その声を聞きながら。
サクヤヒメは静かに目を閉じた。
大切な駒。
失えば、新しい駒を探せばいい。
それが神としての考え。
けれど。
胸の奥に。
ほんの小さな違和感が残っていた。
なぜ。
ただの駒のはずなのに。
あの十人が笑っている姿を。
見続けてしまうのか。
サクヤヒメ自身も。
まだ答えを知らなかった。




