結界と祠
「祠が一つ……おかしいんです。」
桜子の言葉に、辺りが静かになる。
サクヤヒメは慌てることなく聞いた。
「順番に話してください。」
桜子は深く息を吸う。
「五つ目の祠です。」
「札を納めても光りませんでした。」
「それから。」
菊音が続ける。
「ひびが広がったんです。」
「石が割れる音もしました。」
「外から壊された感じじゃありません。」
紫陽が言う。
「中から押し広げられたような割れ方でした。」
サクヤヒメは黙って聞いている。
「だから。」
柳羽が口を開く。
「勝手に触らずに戻ってきました。」
「そうですか。」
サクヤヒメは静かに頷いた。
「皆さんの判断は正しいです。」
その一言で、十人の表情が少しだけ和らぐ。
玄灯が杖をついた。
コツン。
「他の祠は。」
「全部光りました。」
朝佳が答える。
「異常はありません。」
「そうか。」
玄灯はそれだけ言う。
サクヤヒメは少し考え込むように目を閉じた。
「……玄灯。」
「分かっとる。」
玄灯も短く返す。
二人だけで通じているようだった。
「何なんですか?」
雪羽が思わず聞く。
サクヤヒメは十人を見る。
「皆さんには、まだ話していなかったことがあります。」
全員の空気が変わる。
「神殿を囲む結界は、一つの大きな結界ではありません。」
「皆さんが巡っていた祠。」
「あれが一つ一つ、小さな結界の核になっています。」
桜子達は顔を見合わせる。
「つまり。」
椿希が呟く。
「一つ壊れたら……。」
「そこだけ結界が弱くなります。」
サクヤヒメが答えた。
「ですが。」
「完全に壊れたわけではありません。」
「今なら、まだ間に合います。」
その言葉に、全員が少しだけ安心する。
「じゃあ。」
丹奈が立ち上がる。
「今から直しに行こう!」
「待ちなさい。」
サクヤヒメが初めて少し強い口調になる。
丹奈は動きを止めた。
「皆さんだけでは行かせられません。」
「え?」
「祠に異常が起きた原因が分からない以上、安全とは言えません。」
静寂。
サクヤヒメは玄灯へ視線を向ける。
「一緒に来ていただけますか。」
「うむ。」
玄灯は杖を手に立ち上がる。
「わしも確認したかった。」
その言葉を聞いた雪羽が小さく呟く。
「玄灯が一緒ってことはさ…。」
「結構まずい?」
玄灯は否定もしない。
肯定もしない。
ただ。
「準備をせい。」
その一言だけを残した。
十人は顔を見合わせる。
今までの訓練とも。
昨日の亡き色との戦いとも違う。
初めて。
玄灯とサクヤヒメが、自分達と同じ場所へ向かおうとしていた。




