判断
「戻ろう。」
朝佳の一言で、全員が頷きかけた。
「待って。」
紫陽が祠の前にしゃがむ。
ひび割れを静かに見つめる。
触れない。
近付きすぎない。
ただ観察する。
「紫陽?」
桜子が声を掛ける。
「このひび。」
「……外側からじゃない。」
「え?」
菊音も近付く。
「内側から割れてる。」
全員がもう一度祠を見る。
確かに。
石の欠け方がおかしい。
誰かが壊したなら、外から力が加わるはず。
でも。
これは違う。
中から押し広げられたような跡だった。
「じゃあ……。」
雪羽が口を開く。
「中で何か起きてるってこと?」
紫陽は首を横に振る。
「分からない。」
「でも。」
「このまま札を置いて帰るのは違う気がする。」
丹奈が腕を組む。
「壊す?」
「だめ。」
桜子が即座に止めた。
「サクヤヒメ様から預かったものだよ。」
「勝手に触るのはまずい。」
玄灯の言葉も思い出す。
“戦えと言われたら戦う。”
“歩けと言われたら歩く。”
“それも修行じゃ。”
今日は。
祠へ札を納めること。
それだけを頼まれた。
「だったら。」
柳羽が静かに言う。
「私達で勝手に決めることじゃない。」
その一言で空気が変わる。
「報告しよう。」
蓮唯も頷く。
「でも。」
梅依が周囲を見回す。
「このまま放っておいて大丈夫かな。」
誰も答えられない。
すると。
桜子が祠の前へ歩いた。
懐から札を取り出す。
光らなかった札。
それを両手で持ち直し、祠へ向かって軽く頭を下げた。
「ごめんなさい。」
「私達じゃ分からない。」
「だから。」
「ちゃんと分かる人を連れてくるね。」
静かな声だった。
もちろん。
返事はない。
それでも。
不思議と胸のつかえが少しだけ軽くなった。
「行こう。」
桜子が振り返る。
誰も反対しない。
十人は来た道を戻り始めた。
焦って走る者はいない。
誰一人離れる者もいない。
歩幅を合わせながら。
神殿へ向かう。
その頃。
神殿では。
玄灯が縁側に座り、お茶を飲んでいた。
「まだ戻らんか。」
湯呑みを置く。
その横で、サクヤヒメも山の方を静かに見つめていた。
「予定より少し遅いですね。」
「うむ。」
玄灯は短く答える。
「……何か見つけたか。」
サクヤヒメは何も言わない。
ただ。
穏やかな笑みは崩さないまま。
遠くの山を見つめ続けていた。




