ほころび
準備を終えた花組は、神殿の正門へ集まっていた。
白い札は、それぞれ大事そうに懐へしまっている。
「…てか一刻ってどんくらいなの?」
丹奈が言う。
「今は夏だから…大体2時間とちょっとくらい?」
桜子か答える。
「約2時間40分」
紫陽が訂正した。
「「ありがと、紫陽」」
丹奈と桜子の声が同時だった。
「一刻くらいで終わるなら気楽だね。」
雪羽が伸びをする。
「そういう時ほど何かある。」
朝佳がぼそっと言う。
「やめて。」
丹奈が即座に返した。
神殿の前では、サクヤヒメと玄灯が待っていた。
「では、行ってらっしゃい。」
サクヤヒメが微笑む。
「はい!」
十人が歩き始める。
神殿の石段を下り、細い山道を進む。
昨日までの訓練とは違う。
武器は持っている。
でも、抜く気配は誰にもない。
「静かだね。」
菊音が辺りを見回す。
「鳥の声しかしない。」
柳羽も小さく頷いた。
しばらく歩くと、最初の祠が見えてきた。
古びた石造りの小さな祠。
屋根には苔が生え、長い年月を感じさせる。
「ここ?」
桜子が札を取り出す。
「たぶん。」
紫陽が周囲を確認する。
祠の中央には、小さなくぼみが一つ。
桜子はそっと札を納めた。
ふわり、と淡い光が浮かぶ。
「綺麗……。」
雪羽が思わず声を漏らした。
光は数秒で消え、祠はまた静かになった。
「これで終わり?」
「みたい。」
そのまま二つ目、三つ目の祠へ向かう。
どれも同じように札を納めると、優しく光った。
「思ってたより簡単じゃん。」
丹奈が笑う。
「まだ半分だけどね。」
椿希が返す。
そして五つ目の祠へ着いた時だった。
紫陽が足を止める。
「……待って。」
全員も止まる。
「どうしたの?」
桜子が聞く。
紫陽は祠を見つめたまま答えた。
「変。」
「何が?」
「他と違う。」
近付いて見る。
祠の表面に、小さなひびが入っていた。
一本。
細く。
けれど確かに。
「最初から?」
蓮唯がしゃがみ込む。
「違うと思う。」
紫陽は首を振る。
「さっきまでの祠には無かった。」
桜子が札を取り出す。
「入れてみる。」
そっと、くぼみへ納める。
いつもなら光るはずだった。
だが。
何も起きない。
静寂。
「……光らない。」
雪羽の声が少し震える。
その直後。
パキッ。
乾いた音が響いた。
祠のひびが、ゆっくりと広がっていく。
十人が息をのむ。
誰も動けない。
何が起きているのか分からない。
「下がって。」
紫陽が短く言う。
全員が一歩下がる。
ひびはそれ以上広がらなかった。
辺りは静かだ。
風もない。
鳥も鳴かない。
「……これ。」
朝佳が小さく呟く。
「サクヤヒメ様に報告した方がいいんじゃない…?」
誰も反対しなかった。
もう。
ただ札を届けるだけの役目ではなくなっていた。




