初めての任
翌朝。
神殿の広間。
花組の十人はいつものように集まっていた。
「今日は何するんだろ。」
雪羽が欠伸をしながら呟く。
「また玄灯の特訓じゃない?」
丹奈が肩を回す。
「今日は腕が上がる程度で済むといいね。」
朝佳がぼそっと言う。
「済まない気がする。」
椿希が苦笑した。
その時。
広間の扉がゆっくり開く。
入ってきたのはサクヤヒメだった。
その後ろに玄灯もいる。
だが。
今日は木刀も、訓練用の目印もない。
玄灯も杖をついたまま黙っている。
「おはようございます。」
サクヤヒメが静かに微笑む。
「今日は訓練をお休みします。」
十人が固まる。
「……え?」
雪羽が聞き返した。
「休み?」
「本当に?」
丹奈まで疑っている。
玄灯は腕を組んだまま一言。
「休みではない。」
「やっぱり。」
雪羽が肩を落とす。
サクヤヒメは続ける。
「今日は、皆さんに初めてお願いしたいことがあります。」
広間の空気が少し変わる。
「お願い?」
桜子が聞く。
サクヤヒメは頷いた。
「神殿の周囲には、私が長い年月をかけて張った結界があります。」
「皆さんが来る時にも通った結界です。」
全員が思い出す。
あの光の膜のようなものを。
「あの結界は永遠ではありません。」
「少しずつ力を失います。」
静かに話すサクヤヒメの表情は穏やかだった。
「そのため、定期的に結界の核へ祈りを届ける必要があります。」
「祈り?」
菊音が首を傾げる。
「難しいことではありません。」
サクヤヒメは小さな木箱を机に置いた。
中には十枚の白い札が入っている。
「この札を、それぞれ決められた場所へ納めてきてください。」
「敵は出ません。」
「戦う必要もありません。」
「ですが。」
少しだけ声の調子が変わる。
「途中で誰一人として、はぐれてはいけません。」
紫陽が札を見る。
「十枚ある。」
「一人一枚ですね。」
「はい。」
サクヤヒメは頷いた。
「結界は十人の力を受けて初めて安定します。」
玄灯が口を開く。
「戦えと言われたら戦う。」
「歩けと言われたら歩く。」
「それも修行じゃ。」
「それだけ?」
丹奈が聞く。
玄灯は少し笑った。
「それだけと思うなら、行ってみるといい。」
意味深な言い方だった。
桜子は白い札を手に取る。
紙なのに。
ほんのり温かい。
「出発の準備をしてください。」
「一刻ほどで戻れる距離です。」
サクヤヒメはそう言って微笑んだ。
花組の十人は顔を見合わせる。
初めて。
誰かを倒すためでも。
修行のためでもない。
神殿の役目を任された。
その事実だけで。
少しだけ背筋が伸びるのだった。




