成果
翌日。
「遅い。」
朝一番。
いつもの玄灯の声。
「いや今来たばっかなんだけど。」
雪羽が抗議する。
「遅いものは遅い。」
「理不尽。」
「師匠ってそういうものじゃ。」
「絶対違う。」
そんなやり取りをしながら、今日の訓練も始まった。
丹奈の大槌が地面を揺らす。
椿希の刀が風を切る。
朝佳の矢が飛ぶ。
菊音の鉄扇が舞う。
桜子の細剣が閃く。
梅依の鉤爪が軌道を描く。
蓮唯の刃鞭がしなる。
柳羽の薙刀が伸びる。
雪羽のワイヤーが木々を繋ぐ。
そして紫陽が全体を見る。
「桜子、左。」
「うん!」
「丹奈、前に出すぎ。」
「えぇー。」
「椿希、そのまま右。」
「了解。」
少し前までなら。
こんな風に動くことはできなかった。
でも今は違う。
指示が飛ぶ。
動く。
合わせる。
考える前に体が動くようになっていた。
その時だった。
玄灯の視線が遠くへ向く。
「止まれ。」
全員が動きを止める。
花畑の向こう。
黒い影。
一つ。
二つ。
三つ。
ゆっくりとこちらへ近付いてくる。
亡き色だった。
「え。」
雪羽が声を漏らす。
玄灯は杖をつく。
コツン。
「ちょうどいい。」
嫌な予感。
「修行の成果を出してこい。」
「嘘でしょ!?」
「本当じゃ。」
玄灯は平然としている。
「わしは手を出さん。」
「もっと嘘でしょ!?」
「死にはせん。」
その言葉だけ残して、玄灯は後ろへ下がった。
十人が顔を見合わせる。
緊張。
不安。
怖い。
でも。
「やるしかないか。」
椿希が刀を抜く。
「うん。」
桜子も細剣を構える。
「紫陽。」
朝佳が見る。
紫陽は亡き色を見る。
距離。
数。
動き。
全部見る。
「丹奈と椿希は前。」
「了解。」
「桜子は中央。」
「朝佳は援護。」
「菊音は桜子と一緒。」
「梅依は右。」
「蓮唯は左。」
「雪羽は上。」
「柳羽は穴埋め。」
誰も異論を言わない。
「行くよ。」
亡き色が動く。
丹奈が前へ出る。
大槌。
受け止める。
そこへ椿希。
刀が走る。
亡き色が下がる。
「右。」
紫陽。
梅依が飛び込む。
鉤爪。
亡き色の動きが止まる。
「今。」
朝佳の矢。
菊音の鉄扇。
桜子の細剣。
連続。
途切れない。
「左来る。」
紫陽。
蓮唯の刃鞭が伸びる。
柳羽の薙刀が支える。
上から。
雪羽。
ワイヤーで亡き色の動きを乱す。
気付けば。
誰も一人で戦っていなかった。
誰かが止める。
誰かが繋ぐ。
誰かが支える。
その繰り返し。
やがて。
最後の亡き色が消える。
静かになる。
風が吹く。
「終わった……?」
丹奈が座り込む。
「終わったっぽい……。」
雪羽もその場に座る。
玄灯が近付いてくる。
「どうじゃ。」
桜子が少し考える。
「……なんか。」
細剣を見る。
「前よりやりやすかったかも。」
「分かる。」
椿希が頷く。
「前は一人で戦ってる感じだった。」
「今日は違ったね。」
朝佳が言う。
「気付いたら誰かいた。」
菊音が笑う。
「助けてもらったし助けた。」
「悪くなかった。」
紫陽が短く言う。
玄灯は少しだけ目を細めた。
「ようやく形になってきたの。」
風が吹く。
花びらが舞う。
「じゃが。」
嫌な予感。
「訓練は続くぞ。」
「え゛っ?!」
花畑に十人分の声が響いた。




