真っ赤な時間
花畑へ戻る頃には、空が少し赤くなり始めていた。
「終わった……」
丹奈がその場に座り込む。
「疲れた……」
雪羽も続く。
「訓練で山登って山下るって何。」
「意味分かんない。」
椿希も珍しく同意した。
玄灯は何も言わない。
杖をついて立っている。
しばらくして。
「今日は終わりじゃ。」
その一言で。
十人の空気が一気に抜けた。
「やっとか……」
「長かった……」
「生きて帰れた……」
好き勝手なことを言い始める。
玄灯は呆れたようにため息をついた。
「まだ死なん。」
「保証がないんだよなぁ。」
雪羽が言う。
否定できなかった。
「帰れ。」
玄灯は短く言う。
「明日も朝からじゃ。」
「はい解散!」
「聞いてない!」
「朝からって聞こえた瞬間耳閉じた!」
騒がしい。
玄灯はもう何も言わなかった。
言っても無駄だと理解したらしい。
花組の十人は神殿へ戻る。
途中。
誰からともなく武器の話になった。
「そういえばさ。」
椿希が刀を肩に担ぐ。
「桜子の細剣って軽そうでいいよね。」
「いや全然。」
桜子が即答する。
「力いるよこれ。」
「嘘だ。」
丹奈が言う。
「大槌持ってから言って。」
「それはそう。」
全員頷いた。
「蓮唯のも嫌。」
雪羽が言う。
「絶対痛いやつじゃん。」
「痛いよ。」
蓮唯が答える。
「使う側も。」
「え。」
「慣れるまでは普通に巻き込む。」
少し静かになった。
「怖。」
「怖。」
「怖い。」
三人くらい声が重なった。
「雪羽のワイヤーも十分怖いけどね。」
朝佳が言う。
「この前木の上から落ちそうになってたでしょ。」
「あれは事故。」
「三回目の事故。」
「ノーカウント。」
「カウントです。」
そんな話をしているうちに。
いつの間にか神殿が見えてくる。
サクヤヒメは入口で待っていた。
「おかえりなさい。」
いつもの声。
いつもの笑顔。
でも。
視線は自然と玄灯へ向く。
玄灯は短く言った。
「悪くない。」
それだけ。
サクヤヒメが少し目を丸くする。
「珍しいですね。」
「事実じゃ。」
玄灯はそれだけ言って歩いていく。
十人は顔を見合わせる。
「褒められた?」
「たぶん。」
「たぶんじゃなくて褒められたんじゃない?」
「玄灯基準だと大絶賛かもしれない。」
「怖い世界だなぁ。」
神殿の中に笑い声が響く。
戦っている時とは違う。
訓練している時とも違う。
そんな時間だった。
そして。
玄灯は少し離れた場所から、その様子を見ていた。
「どうでしたか?」
隣に来たサクヤヒメが聞く。
玄灯は少し考える。
「まだ弱い。」
即答だった。
「じゃが。」
そこで言葉を切る。
「十人とも、生き残ろうとはしとる。」
サクヤヒメは小さく笑った。
玄灯もそれ以上は何も言わない。
夕暮れの花畑を風が抜けていく。
明日も訓練。
たぶん明後日も。
その次も。
まだ始まったばかりだった。




