たとえ欠けても
「成長しとる。」
その一言に。
少しだけ空気が緩む。
雪羽なんてその場に座り込みかけていた。
「じゃあ終わり?」
「なぜそうなる。」
玄灯が言う。
「…まぁ確かに終わりじゃ。」
「やったぁ!」
雪羽が飛び上がる。
「ただし。」
全員が止まる。
嫌な予感。
「帰るまでが訓練じゃ。」
「遠足みたいに言わないでよぉ〜」
椿希が呟く。
玄灯は聞こえなかったことにした。
「今から山を下る。」
「普通じゃん。」
丹奈が言う。
「普通に下りればな。」
玄灯は杖をつく。
コツン。
「桜子。」
「はい。」
「おぬしは怪我をした。」
「え?」
「右腕が使えん。」
「設定!?」
「丹奈。」
「なに?」
「足を痛めた。」
「設定かぁ。」
「雪羽。」
「はい。」
「ワイヤー禁止。」
「死ぬ。」
「死なん。」
「いや死ぬ!」
「死なん。」
終わった。
雪羽の顔が終わった。
「他も同じじゃ。」
玄灯が全員を見る。
「全員どこかしら使えんと思え。」
「実戦で万全な方が珍しい。」
誰も反論できなかった。
「下山開始。」
最初は上手くいかなかった。
丹奈が遅れる。
雪羽が移動についていけない。
桜子も右腕が使えない設定だから細剣を持てない。
自然と速度が落ちる。
椿希が先に行く。
朝佳が後ろを見る。
隊列が伸びる。
ばらばら。
その時。
「止まりなさい。」
玄灯。
全員が止まる。
「今の花組を半分に切ったらどうなる。」
誰も答えない。
「前は前しか見ておらん。」
「後ろは後ろしか見ておらん。」
玄灯は杖を地面についた。
「これで敵が来たら終わりじゃ。」
重い沈黙。
紫陽が周囲を見る。
前。
後ろ。
距離。
確かに遠い。
「丹奈と柳羽を中央。」
紫陽が言う。
「朝佳は最後尾。」
「雪羽は前。」
「私前!?」
「情報係。」
「なるほど。」
「桜子は真ん中。」
「動ける人が動けない人を挟む。」
玄灯は何も言わない。
また歩き始める。
今度は少し違った。
前が止まれば全員が止まる。
後ろが遅れれば前も待つ。
誰かが転びそうになれば手が伸びる。
速度は遅い。
でも。
崩れない。
山道を抜ける。
花畑が見えてくる。
玄灯が振り返った。
「今の方が強い。」
丹奈が首を傾げる。
「戦ってないのに?」
「戦わん状況を作るのも強さじゃ。」
風が吹く。
花が揺れる。
玄灯は少しだけ目を細めた。
「おぬしらは十人おる。」
「一人分の強さを十個集めるな。」
「十人分の強さを一つにしろ。」
誰も喋らない。
でも。
その言葉だけは。
妙に頭に残った。




