ほんき
「次は本気で避ける。」
「今まで本気じゃなかったの!?」
花畑に声が響く。
玄灯は何も答えない。
ただ杖を持ち直す。
それだけだった。
でも。
空気が変わった。
桜子にも分かった。
さっきまでとは違う。
何かが違う。
「来い。」
短い。
その一言。
次の瞬間だった。
消えた。
「え?」
丹奈が声を漏らす。
右。
違う。
後ろ。
違う。
「上!」
朝佳が叫ぶ。
玄灯がいた。
いつの間にか木の枝の上。
全員が見上げる。
その一瞬。
「下じゃ。」
気付いた時には。
もう地面にいた。
速い。
見えない。
「雪羽!」
紫陽の声。
ワイヤーが伸びる。
逃げ道を塞ぐ。
玄灯が止まる。
「蓮唯。」
刃鞭。
「丹奈。」
大槌。
「椿希。」
刀。
攻撃が重なる。
だが。
全部外れる。
杖が動く。
たったそれだけ。
刃鞭が逸れる。
刀が流される。
大槌が空を叩く。
「まだじゃ。」
玄灯の声。
「武器しか見えておらん。」
紫陽が目を細める。
武器。
違う。
見ているのは。
「足。」
紫陽が呟く。
「何?」
雪羽が聞く。
「武器じゃない。」
「足を見て。」
全員の視線が変わる。
玄灯の足。
踏み込み。
重心。
向き。
全部に意味があった。
次にどこへ動くのか。
全部そこに出ている。
「左。」
紫陽。
玄灯が動く。
本当に左だった。
「前。」
椿希が動く。
刀が走る。
玄灯が避ける。
「上。」
雪羽。
ワイヤー。
「右。」
柳羽。
薙刀。
「今。」
桜子。
細剣が伸びる。
カン。
杖。
また止められる。
でも。
今度は違った。
「梅依。」
長い鉤爪。
「菊音。」
鉄扇。
「朝佳。」
矢。
連続。
途切れない。
玄灯が初めて後ろへ大きく下がる。
「ほう。」
少しだけ。
驚いた顔。
その隙。
「蓮唯!」
刃鞭が走る。
しなる。
伸びる。
玄灯が杖を上げる。
受ける。
だが。
その杖に。
細い糸が巻き付いた。
「捕まえた!」
雪羽。
ワイヤー。
玄灯が初めて足を止める。
ほんの一瞬。
「桜子!」
紫陽の声。
踏み込む。
細剣が伸びる。
真っ直ぐ。
迷わず。
コツン。
玄灯の肩。
剣先が触れる。
静寂。
風だけが吹く。
玄灯が桜子を見る。
桜子も固まっていた。
今。
当たった。
「……一本じゃな。」
玄灯が言う。
誰も動かない。
数秒後。
「やったぁぁぁ!!」
丹奈。
「当たった!」
雪羽。
「本当に!?」
椿希。
一気に騒がしくなる。
玄灯は肩を見る。
傷なんてない。
本当に触れただけ。
それでも。
確かに一本だった。
玄灯は小さく笑う。
「十人で取った一本じゃ。」
その言葉で。
少しだけ空気が静かになる。
誰か一人の勝ちじゃない。
雪羽がいた。
蓮唯がいた。
紫陽がいた。
みんないた。
だから届いた。
玄灯は杖をつく。
コツン。
「今日は終わりじゃ。」
「珍しく早い。」
朝佳が言う。
「褒美じゃ。」
玄灯が背を向ける。
少し歩いて。
立ち止まる。
「明日からは。」
全員が顔を上げる。
「もっときつくなるぞ。」
沈黙。
「今のなしで。」
「却下じゃ。」
花畑にため息が広がった。




