最初の一撃
「明日もやるぞ。」
そう言い残して去っていった玄灯の背中を、全員が恨めしそうに見送っていた。
「絶対あのおじいちゃん人間じゃない。」
雪羽が断言する。
「杖ついてる意味ある?」
丹奈も頷く。
「むしろ杖が本体説。」
「やめろ。」
珍しく紫陽が突っ込んだ。
少し笑いが起きる。
その時。
「でも。」
桜子が細剣を見る。
「あと少しだったよね。」
静かになる。
確かに。
届かなかった。
でも。
届きそうだった。
昨日までとは明らかに違った。
「最初は全然だったし。」
朝佳が言う。
「少なくとも進歩はしてる。」
「褒めてる?」
「事実を言っただけ。」
「朝佳っぽい。」
椿希が笑う。
その日の訓練はそこで終わった。
翌朝。
花畑。
玄灯は既にいた。
相変わらず早い。
というか寝ているのか怪しい。
「今日はどうするの?」
雪羽が聞く。
「同じじゃ。」
全員が嫌そうな顔をする。
玄灯は構わず続けた。
「じゃが条件を増やす。」
嫌な予感しかしない。
「今日はおぬしらも武器を使え。」
沈黙。
「昨日も使ってたよね?」
「本気では使っておらん。」
それはそうだった。
昨日は当てることが目的。
怪我をさせる気で振ってはいない。
「安心せい。」
玄灯が言う。
「当たらん。」
「その自信どこから来るの。」
丹奈が呆れる。
「経験じゃ。」
妙に説得力があった。
「始め。」
雪羽が飛ぶ。
ワイヤーが張られる。
蓮唯の刃鞭が走る。
丹奈が前へ出る。
椿希も続く。
昨日と同じ。
だけど違う。
迷いが少ない。
紫陽もそれを感じていた。
「椿希、右。」
刀が動く。
「丹奈、そのまま押して。」
大槌が振り下ろされる。
「雪羽、上。」
「了解。」
「朝佳。」
矢が放たれる。
玄灯が避ける。
「柳羽。」
薙刀が迫る。
受け流される。
「菊音、左。」
鉄扇が舞う。
玄灯が距離を取る。
「桜子。」
その一言だけ。
桜子が踏み込む。
細剣が伸びる。
玄灯が杖を動かす。
弾く。
その瞬間。
カン、と乾いた音。
玄灯の杖の先端が少し削れた。
全員が止まる。
玄灯も杖を見る。
先端がほんの少し欠けていた。
静寂。
「…当たった?」
雪羽が呟く。
「掠っただけじゃ。」
玄灯は平然と言う。
でも。
初めてだった。
玄灯に傷をつけたのは。
「やった!」
丹奈が叫ぶ。
「掠っただけだって。」
「でも掠った!」
「確かに。」
朝佳も珍しく否定しない。
玄灯は杖を見つめる。
そして。
小さく笑った。
「成長しとるの。」
それだけだった。
でも。
その一言の重みは、今までのどんな言葉より大きかった。
「じゃあ続きじゃ。」
「えっ。」
「掠ったからって終わりじゃないぞ。」
「嘘でしょぉ!」
「むしろここからじゃ。」
全員が同時に顔をしかめる。
玄灯は少しだけ楽しそうだった。
「今のおぬしらなら。」
杖を構える。
「次は本気で避ける。」
「今まで本気じゃなかったの!?」
花畑に十人分の声が響いた。




