初撃
「もう一回じゃ。」
玄灯が杖をつく。
今度は誰も文句を言わなかった。
位置につく。
自然と。
誰に言われるでもなく。
丹奈と椿希が前へ。
朝佳が後ろへ。
雪羽は上。
蓮唯は左。
桜子と菊音が中央。
柳羽はその少し後ろ。
梅依は右。
そして。
紫陽が全体を見る位置へ立つ。
玄灯が少し目を細めた。
「始め」
最初に動いたのは雪羽。
ワイヤーが木々を繋ぐ。
空中を走る。
玄灯が視線を上げる。
その瞬間。
「蓮唯」
紫陽。
刃鞭が走る。
避ける。
「丹奈」
大槌。
避ける。
「椿希」
刀が迫る。
受け流す。
だが。
今度は終わらない。
「右」
梅依。
長い鉤爪が横から迫る。
玄灯が半歩下がる。
「柳羽」
薙刀が走る。
玄灯は杖で受ける。
金属音。
そのまま距離を取ろうとする。
「雪羽」
上
ワイヤー。
逃げ道を塞ぐ。
玄灯の動きが止まる。
ほんの一瞬。
「朝佳!」
矢が飛ぶ。
避ける。
避けた先。
「菊音っ」
鉄扇。
花弁みたいな軌道。
さらに。
「桜子!」
細剣が伸びる。
玄灯が杖を上げる。
受ける。
その瞬間。
初めてだった。
玄灯の杖が大きく弾かれる。
「ほう。」
玄灯の声。
桜子の目が見開く。
今。
押した。
ほんの少しだけ。
でも。
確かに。
「まだ。」
紫陽の声。
全員が動く。
誰も止まらない。
丹奈。
椿希。
梅依。
柳羽。
攻撃が続く。
玄灯は避ける。
受ける。
流す。
それでも。
さっきより忙しそうだった。
「紫陽。」
玄灯が初めて名前を呼ぶ。
「なんでおぬしは来ん。」
紫陽は答える。
「隊長が前に出たら終わる。」
沈黙。
そして。
玄灯が少し笑った。
「なるほどの。」
次の瞬間。
玄灯が初めて前へ出た。
速い。
杖。
たった一歩。
それだけで。
丹奈の懐。
椿希の横。
桜子の前。
一瞬だった。
全員が反応できない。
ただ一人を除いて。
「下がって。」
紫陽。
短い声。
全員が反射で動く。
直後。
杖が空を切った。
もし動いていなければ。
当たっていた。
静寂。
玄灯が止まる。
紫陽を見る。
「見えておるな。」
紫陽は答えない。
「良い目じゃ。」
珍しい。
はっきりした称賛だった。
⸻
玄灯は杖をつく。
「今日はここまで。」
全員がその場に座り込む。
疲れた。
でも。
嫌な疲れじゃない。
「惜しかったな。」
椿希が言う。
「あと少しだった。」
桜子が細剣を見る。
確かに。
あと少しだった。
玄灯に届かなかった。
でも。
一人で届かなかったんじゃない。
十人で届かなかった。
それはきっと。
全然違う。
玄灯が背を向ける。
「明日もやるぞ。」
「うわぁ……」
花畑に声が響く。
玄灯は少しだけ笑っていた。




