十人の闘い
「もう一回じゃ。」
玄灯が杖をつく。
コツン。
誰も動かない。
さっきまでなら。
たぶん椿希か梅依が飛び出していた。
でも今は違う。
「どうする?」
丹奈が聞く。
珍しく誰かに任せるような声だった。
少しの沈黙。
すると。
「雪羽。」
紫陽が口を開いた。
「上を取って。」
「了解。」
「蓮唯は左。」
「分かった。」
「丹奈と椿希は正面。」
「正面突破?」
椿希が聞く。
「違う。」
紫陽が首を振る。
「追い込む。」
⸻
雪羽のワイヤーが伸びる。
建物もない。
柱もない。
それでも木々を繋ぎ、空を滑る。
玄灯の視線が一瞬上へ向く。
その瞬間。
蓮唯の刃鞭。
左から伸びる。
避ける。
だが。
今度は避けた先に丹奈。
大槌が振り下ろされる。
轟音。
玄灯が横へ動く。
さらに。
椿希。
刀が走る。
玄灯は杖で受け流す。
金属音。
「速いの。」
初めて玄灯が言った。
椿希が少し目を見開く。
「桜子。」
紫陽の声。
桜子が動く。
細剣を構える。
でも突っ込まない。
待つ。
玄灯が避ける。
その先。
桜子。
細剣が伸びる。
玄灯が杖を払う。
逸らされる。
それでも。
「今。」
紫陽の短い指示。
今度は菊音。
鉄扇が開く。
花弁のような軌道。
玄灯が後ろへ下がる。
そこへ。
紫陽。
鎌が静かに迫る。
「ほう。」
玄灯がまた動く。
今度は大きく。
後ろへ跳ぶ。
着地。
その瞬間。
「そこ。」
紫陽が言う。
上。
ワイヤー。
玄灯の着地点を横切るように張られていた。
初めて。
玄灯の動きが止まる。
ほんの一瞬。
その一瞬だけ。
「桜子。」
紫陽の声。
桜子が踏み込む。
細剣が伸びる。
届く。
届くはずだった。
コツン。
杖。
細剣の先が止まる。
あと数センチ。
「惜しい。」
玄灯が言った。
沈黙。
桜子は細剣を下ろす。
悔しい。
ものすごく悔しい。
あと少しだった。
「でも。」
玄灯が続ける。
「今のは良かった。」
全員が顔を上げる。
「誰か一人の攻撃ではない。」
「雪羽がおった。」
「蓮唯がおった。」
「丹奈がおった。」
「椿希がおった。」
「菊音がおった。」
「紫陽がおった。」
「そして桜子がおった。」
玄灯は少し笑う。
「それが花組じゃ。」
静かな風が吹く。
花弁が揺れる。
「もう一つ。」
玄灯が紫陽を見る。
「指示を出す者がおると戦いは変わる。」
紫陽は少し眉をひそめる。
「向いておるよ、おぬし。」
返事はない。
ただ視線を逸らしただけだった。
「もう一回じゃ。」
「えぇ……」
今度は全員の声が揃った。
玄灯は少しだけ笑う。
「当てるまで終わらんぞ。」
その言葉に。
十人は顔を見合わせる。
そして。
誰からともなく笑った。
まだ届かない。
でも。
昨日よりは近づいていた。




