十対一
花畑に風が吹く。
誰も動かない。
玄灯は杖をついたまま立っている。
息一つ乱れていない。
対して花組は。
もうかなり疲れていた。
「一人ずつ行くから駄目。」
桜子が言う。
玄灯は何も言わない。
否定もしない。
「じゃあどうするの?」
雪羽が聞く。
「同時。」
答えたのは紫陽だった。
「一方向じゃ避けられる。」
「二方向でも避けられる。」
「なら。」
そこで言葉を切る。
「全部から行く。」
玄灯の口元が少しだけ動いた。
「雪羽。」
「ん?」
「動ける?」
「誰に言ってるの?」
雪羽が笑う。
「任せて。」
ワイヤーが伸びる。
木と木を結ぶ。
しゅるるる、と雪羽が空を駆ける。
視線が上へ向く。
玄灯も見上げる。
その瞬間。
「今!」
朝佳の声。
矢が飛ぶ。
避ける。
そこへ。
横から梅依。
長い鉤爪が迫る。
避ける。
さらに。
反対側から椿希。
刀が閃く。
だが。
当たらない。
玄灯は杖を動かす。
たったそれだけ。
三人の攻撃が空を切る。
「まだ甘い。」
「丹奈!」
大槌が振り下ろされる。
重い音。
地面が揺れる。
玄灯が後ろへ下がる。
その先。
待っていた。
柳羽。
薙刀が横薙ぎに走る。
避ける。
だが。
避けた先に。
桜子。
細剣が伸びる。
玄灯が初めて大きく動く。
後ろへ飛ぶ。
「おっ。」
雪羽が声を上げる。
「避けた!」
「惜しいのう。」
玄灯が言う。
「もう一回!」
今度は蓮唯。
棘付きの刃鞭が伸びる。
逃げ道を塞ぐように。
しなる。
曲がる。
玄灯が足を止める。
その瞬間。
菊音の鉄扇。
花びらみたいに広がる軌道。
さらに。
紫陽の鎌。
静かに。
でも確実に距離を詰める。
玄灯が杖を上げる。
初めて。
防いだ。
金属音。
「ほう。」
初めてだった。
玄灯が感心したような声を出したのは。
「まだじゃ。」
次の瞬間。
杖が動く。
紫陽の鎌が逸れる。
菊音が下がる。
蓮唯の刃鞭も弾かれる。
結局。
当たらない。
誰も。
一撃も。
沈黙。
全員息を切らしている。
玄灯だけが変わらない。
「悔しいか。」
誰も答えない。
答える必要がなかった。
「なら覚えろ。」
玄灯が杖をつく。
コツン。
「今のは十人で戦った。」
「じゃが。」
静かな声。
「十人で同時に攻撃しただけじゃ。」
全員が顔を上げる。
「十人で戦うというのは。」
玄灯が全員を見る。
「仲間が何をするか知っておることじゃ。」
風が吹く。
花びらが揺れる。
「もう一回じゃ。」
十人が顔を見合わせる。
今度は誰も文句を言わない。
言う余裕もなかった。
でも。
誰の目も。
さっきより少しだけ真剣だった。




