地獄の始まり
翌朝。
まだ薄暗い。
桜子は目を開けた。
眠い。
とにかく眠い。
隣を見る。
まだ寝ている人もいる。
「……まだ大丈夫だよね」
そう思った瞬間。
外から声が聞こえた。
「起きろ」
低い声。
全員が固まる。
聞き覚えがある。
「起きろ」
二回目。
今度はもっと近い。
椿希がむくりと起き上がる。
「今何時……」
誰も知らない。
すると。
コンコン。
玄関を叩く音。
そして。
「十秒以内に出てこんと増やすぞ」
全員が飛び起きた。
数分後。
花組全員が外へ並んでいた。
眠そうな顔。
不機嫌な顔。
諦めた顔。
色々いた。
その前に立つ花守玄灯。
なぜか元気だった。
「よし」
「走るぞ」
「本当に走るんだ……」
雪羽が呟く。
「当たり前じゃ」
玄灯は杖をつく。
コツン。
「戦場では待ってくれん」
「それ昨日も聞いた」
丹奈が小声で言う。
走り始めて十分。
早くも問題が発生した。
「きつい」
椿希。
「黙って走れ」
玄灯。
「はい」
即終了。
さらに十分。
今度は雪羽。
「疲れた」
「まだじゃ」
「まだなの?」
「まだじゃ」
「うそでしょ」
「本当じゃ」
会話が成立していた。
桜子は黙って走る。
横には朝佳。
後ろには菊音。
前には柳羽と雪羽。
全員少しずつ息が上がっていた。
しかし玄灯だけは変わらない。
杖をついているのに。
歩幅も小さいのに。
なぜか先頭にいる。
誰も追い抜けない。
「なんなのあのおじいちゃん」
梅依が息を切らしながら言う。
「知らない」
朝佳も答える。
一時間後。
全員地面に倒れていた。
例外は一人。
玄灯。
「終わりじゃ」
「やっと……」
椿希が地面に顔を埋める。
「終わりじゃが」
嫌な予感。
全員が顔を上げる。
玄灯は穏やかに笑った。
「今度は武器じゃな」
沈黙。
「え?」
雪羽が聞く。
「武器の訓練じゃ」
「今から?」
「今からじゃ」
誰も笑わなかった。
笑う余裕がなかった。
玄灯は杖を持ち上げる。
コツン。
「安心せい」
「死なん程度には加減する」
「その言い方怖いんだけど!?」
丹奈の叫びが花畑に響いた。




