黒い影
黒い影は、商店街の奥にいた。
じっと動かない。
人の形に見える。
でも人ではない。
輪郭がぼやけている。
煙を無理やり固めたみたいだった。
「どうする?」
朝佳が小声で聞く。
「囲む」
紫陽が即答する。
「正面から行くと逃げられる」
全員が頷く。
大きく二手に分かれる。
柳羽と雪羽。
そして残り六人。
ゆっくり距離を詰める。
影はまだ気付いていない。
「今」
紫陽が呟く。
次の瞬間。
柳羽がワイヤーを射出した。
きんっ。
細い糸が建物の壁へ突き刺さる。
柳羽は勢いよく飛び出した。
その直後。
雪羽も同じワイヤーへ飛び乗る。
二人の体が商店街の上を滑るように駆け抜ける。
「うわっ」
影が気付く。
遅かった。
雪羽の鉄扇が開く。
白い雪柳色の刃が閃いた。
影の肩をかすめる。
黒い花弁が散る。
敵の血だった。
影が後退する。
その先には。
椿希がいる。
「そっち行かせない」
赤い大鎌が振られる。
影は咄嗟に避けた。
だが。
その動きは読まれていた。
横から梅依が飛び込む。
黄色い鉤爪が地面を蹴る。
鋭い一撃。
再び黒い花弁が舞う。
「効いてる!」
丹奈が叫ぶ。
しかし。
影はまだ倒れない。
ぐにゃりと体を歪ませた。
次の瞬間。
三つに分裂する。
「は!?」
「増えた!?」
雪羽が叫ぶ。
商店街に三体の亡き色が立つ。
どれも同じ姿。
どれが本体か分からない。
「落ち着いて!」
菊音が声を上げる。
「慌てたらダメ!」
その時。
一体が桜子へ向かって突進した。
速い。
思ったよりずっと。
桜子は反射的に槍を構える。
避ける。
突く。
ただそれだけ。
桜色の槍先が影を貫いた。
ぱっと。
黒い花弁が舞う。
その影は消えた。
「偽物!」
朝佳が叫ぶ。
残り二体。
だが。
どちらが本物か分からない。
影は左右へ散った。
商店街の奥へ逃げていく。
「追うよ!」
椿希が走り出す。
全員も続く。
初任務はまだ終わらない。




