もぬけの殻
結局、その日は開華殿には向かわなかった。
白い建物は遠くに見えたまま。
近付くこともなく。
説明もほとんどないまま。
サクヤヒメは別の方向へ歩き始める。
「じゃあ何しに来たの〜?」
丹奈が聞く。
「案内です」
「本当に案内なんだ」
椿希が笑った。
花畑を抜ける。
天界は思ったより広かった。
どこまで行っても花だけの世界だと思っていたが違う。
川があり。
森があり。
小さな集落もある。
「誰か住んでるの?」
柳羽が聞く。
「現在は誰も住んでいません」
サクヤヒメが答える。
「昔はいたんだ」
「はい」
それ以上は語らない。
相変わらずだった。
集落を歩く。
家はどれも綺麗だった。
壊れていない。
埃も少ない。
なのに人だけいない。
妙な感じだった。
「なんかモデルハウスみたい」
朝佳が言う。
「分かる」
梅依も頷く。
中に入れる家もあった。
机。
棚。
食器。
普通の生活用品。
どれも置かれている。
「生活感あるのに誰もいないって変な感じ」
桜子が呟く。
サクヤヒメは少しだけ考えた。
「そうですね」
珍しく同意した。
その後も歩き続ける。
途中で川辺に座ったり。
花の名前を教わったり。
雪羽が川に落ちそうになって柳羽に引っ張られたり。
思っていたより平和だった。
亡き色も出ない。
戦闘もない。
ただの散歩みたいな時間。
だからこそ。
少しずつ実感が薄れていく。
本当に昨日まで祭りにいたんだっけ。
本当に化け物と戦ったんだっけ。
そんな気分になるくらいには。
穏やかな時間だった。
日が傾き始めた頃。
サクヤヒメが立ち止まる。
「今日はここまでにしましょう」
全員が少し驚く。
「えーもう終わり?」
「はい」
「短くない?」
「初日ですので」
その言葉に誰かが笑った。
そしてまた、サクヤヒメの家へ戻ることになった。




