天界ツアー
ゴォォン。
低い鐘の音で目が覚めた。
桜子はゆっくり目を開く。
知らない天井。
数秒考えて。
「あ…」
思い出した。
天界だった。
祭り。
サクヤヒメ。
花組。
全部夢じゃない。
隣を見る。
椿希が布団から足だけ出して寝ている。
朝佳はいつの間にか机に突っ伏していた。
梅依は布団を丸めて抱きしめている。
ひどい寝相だった。
「……」
桜子は少しだけ笑う。
その時。
廊下から足音が聞こえた。
そして。
襖が勢いよく開く。
「おはよー!」
雪羽だった。
後ろには柳羽。
「朝からうるさい」
椿希が布団の中から言う。
「起床でーす」
「帰れ」
「もう朝だよ」
「帰れ」
会話になっていない。
さらに後ろから丹奈と紫陽も来る。
気付けば全員集合だった。
「朝ごはんあるかな。てか眠ぅ」
朝佳が真っ先に言う。
「お前それしか考えてないだろ」
椿希が呆れる。
「お腹空いたぁ」
「知ってる」
廊下へ出る。
昨日より少し明るい。
とはいえ普通の朝ではない。
空は相変わらず不思議な色だった。
食堂へ向かう途中。
サクヤヒメが立っていた。
「おはようございます」
全員が挨拶を返す。
「今日は何するの?」
丹奈が聞く。
サクヤヒメは少し考えた。
「まず、この世界について知っていただきます」
「授業だ」
椿希が嫌そうな顔をする。
「学校じゃん」
雪羽も嫌そうだった。
「それと」
サクヤヒメが続ける。
「皆さんには天界を案内します」
その言葉で少し空気が変わる。
「案内?」
桜子が聞く。
「はい」
「観光?」
丹奈が目を輝かせる。
「観光ではありません」
即否定だった。
食堂に着く。
朝食が並んでいる。
昨日より普通だった。
焼き魚。
味噌汁。
ご飯。
「神様のご飯って結局普通なんだね」
梅依が言う。
「普通が一番です」
サクヤヒメは真顔だった。
朝食を終えると。
サクヤヒメは全員を外へ連れ出した。
巨大な桜を横切る。
花びらが舞う。
昨日は気付かなかった。
この世界は思ったより広い。
遠くには森。
川。
山。
そして。
地平線の向こうまで続く花畑。
「広っ」
朝佳が思わず呟く。
その時。
桜子は気付いた。
花畑の先。
遠くの丘の上に。
何かがある。
白い建物。
神殿みたいな。
塔みたいな。
「サクヤヒメ」
「はい」
「あれ何?」
サクヤヒメはそちらを見る。
少しだけ表情が変わった。
「…あれは」
初めてだった。
サクヤヒメが言葉を選ぶように話すのは。
「開華殿…皆さんも、いずれ行く場所です」
風が吹く。
花びらが流れる。
その建物だけが。
どこか静かにそこに立っていた。




