空白の続き
誰も動かなかった。
日記は開いたまま。
最後のページ。
途中で終わった文章。
それが妙に気味悪かった。
「終わり?」
丹奈が聞く。
誰に向けたわけでもない。
雪羽が何度かページをめくる。
でも何もない。
本当にそこで終わっていた。
「続き無いじゃん」
椿希が言う。
少しだけ苛立った声。
「途中じゃんこんなの」
誰も返さない。
途中。
その言葉が嫌だった。
桜子は日記を見ていた。
最後の文字。
少しだけ滲んでいる。
書き損じなのか。
涙なのか。
分からない。
「別の日記とか無いのかな」
梅依が本棚を見る。
サクヤヒメは首を横に振った。
「その代のものは、それだけです」
静かな声。
それ以上の説明はない。
柳羽がぽつりと呟く。
「何か残そうとしたのかな」
誰も分からない。
でも。
そう思えた。
途中で終わる文章。
途中で終わる言葉。
何かを書こうとして。
書けなかったように見える。
雪羽は日記を閉じた。
ぱたん。
小さな音。
それだけなのに。
なぜか部屋が静かになった気がした。
「帰ろう」
朝佳が言う。
珍しかった。
自分から話を終わらせるのは。
みんな黙って頷く。
部屋を出る。
廊下を歩く。
さっきより足音が大きく聞こえた。
それぞれの部屋へ向かう。
今度こそ解散だった。
桜子も部屋へ戻る。
襖を閉める。
静かだった。
さっきまで八人いたのに。
今は一人。
布団へ腰を下ろす。
眠いはずだった。
でも眠れない。
頭の中で日記の言葉がぐるぐる回る。
『帰りたいと思っていると思う』
『私達もそうだった』
窓の外を見る。
桜が揺れている。
綺麗だった。
でも。
少しだけ腹が立った。
こんなに綺麗なのに。
どうしてこんな気持ちになるんだろう。
桜子は布団へ倒れ込む。
家に帰りたい。
おばあちゃんに会いたい。
普通に学校へ行って。
普通に友達と話して。
普通に祭りで遊びたかった。
それだけだったのに。
天井を見る。
静かだった。
静かすぎた。
その時。
隣の部屋から小さな物音が聞こえた。
壁越し。
かすかに。
何かが落ちる音。
続いて。
誰かの声。
聞き取れないくらい小さい。
泣いているようにも聞こえた。
桜子は動かなかった。
声も掛けなかった。
たぶん。
その人も掛けてほしくない。
そんな気がした。
だから。
ただ天井を見ていた。
同じ家の中に八人いる。
でも。
抱えている不安だけは。
誰にも代われなかった。




