古びた日記
重たい空気を破ったのは丹奈だった。
「そういえばさ」
全員が顔を上げる。
「この家、広くない?」
「今さら?」
椿希が言う。
「いや、だって神様一人で住んでるんでしょ?」
確かにそうだった。
来る途中も長い廊下があった。
使われていない部屋もたくさん見えた。
「気になる」
雪羽が立ち上がる。
「やめなよ」
朝佳が言う。
「怒られるって」
「バレなきゃセーフ」
「それアウトだから」
結局。
全員で少しだけ見て回ることになった。
眠れそうにもなかったから。
廊下は静かだった。
障子の向こうから桜色の光が差し込んでいる。
妙に綺麗だった。
そして。
奥の方で。
一つだけ半開きになった部屋を見つける。
「開いてる」
梅依が小さく言う。
中を覗く。
誰もいない。
本棚。
机。
棚。
それだけの部屋だった。
「書斎?」
柳羽が呟く。
紫陽は棚を見ていた。
そこには古い本が並んでいる。
和綴じのもの。
革張りのもの。
年代もバラバラだった。
「なんかある」
桜子が机を見る。
引き出しの上。
一冊の日記が置かれていた。
かなり古い。
表紙は色褪せている。
「勝手に見ていいのかな」
朝佳が言う。
「ダメだと思う」
菊音が答える。
「でも気になる」
丹奈が即答した。
その時。
後ろから声がした。
「構いませんよ」
全員飛び上がった。
「うわっ!」
「びっくりした!」
いつの間にかサクヤヒメが立っていた。
気配が無さすぎる。
「心臓止まる」
雪羽が胸を押さえる。
サクヤヒメは気にしていない。
「それは以前の花組の日記です」
部屋が静かになる。
全員の視線が日記へ集まった。
「前の花組?」
桜子が聞く。
サクヤヒメは頷く。
「正確には三代前です」
丹奈がそっと表紙を開く。
達筆だった。
でも読める。
そこには。
花組になった日のことが書かれていた。
『最悪だ』
全員が固まる。
「え?」
雪羽が吹き出す。
ページをめくる。
『神様を殴りたい』
「誰これ」
椿希が笑い始める。
『説明が下手すぎる』
『帰りたい』
『妹に会いたい』
『眠れない』
一気に人間臭くなった。
今まで石碑しか見ていなかった。
だから勝手に。
昔の花組はすごい人達だった気がしていた。
でも違う。
書いてあるのは。
不安とか。
愚痴とか。
文句とか。
そんなものばかりだった。
「私達と変わんないじゃん」
梅依が呟く。
サクヤヒメは少し考える。
そして。
「変わりません」
そう言った。
「花組はいつの時代も普通の人です」
部屋が静かになる。
桜子は日記を見る。
石碑じゃ分からなかった。
でも。
この文字を書いた人は確かに生きていた。
笑って。
怒って。
愚痴を言って。
泣いていた。
自分達と同じように。
そして。
ページをめくった雪羽の手が止まる。
「……あれ?」
最後の方だった。
文章の途中。
日付もない。
ただ一行だけ。
『もし次の花組がこの日記を見つけたら』
そこまで読んだところで。
全員が思わず顔を見合わせた。




