夜更かしの花
夜だった。
たぶん。
サクヤヒメは夜があると言っていた。
気付けば窓の外は少し暗くなっている。
夕暮れと夜の間みたいな色。
それでも誰も寝ていなかった。
八人全員。
桜子の部屋にいる。
会話も減っていた。
疲れているのに眠れない。
そんな空気だった。
「……ねぇ」
最初に口を開いたのは朝佳だった。
みんな顔を上げる。
朝佳は少し迷っていた。
言うかどうか。
そんな顔。
「もしさ」
静かな声。
「帰った時、何日も経ってたらどうする?」
誰も答えない。
聞きたくなかった話だった。
でも。
誰かが言うと思っていた話でもあった。
「学校とか?」
丹奈が聞く。
「それもあるけど」
朝佳は窓を見る。
「家族とか」
部屋が静かになる。
祭りから消えた。
突然。
理由もなく。
連絡もできない。
もし数日経っていたら。
もし一週間だったら。
もしもっとだったら。
「考えたくない」
雪羽がぽつりと言う。
珍しく弱い声だった。
柳羽も何も言わない。
桜子は布団の端を握る。
おばあちゃん。
お母さん。
今どうしているだろう。
探しているだろうか。
泣いているだろうか。
怒っているだろうか。
考えるほど苦しくなる。
「帰れるんだよね」
梅依が言った。
誰に向けた言葉でもない。
確認みたいなものだった。
「帰れる」
椿希が言う。
少し強めに。
「まだ始まったばっかじゃん」
自分に言い聞かせるみたいだった。
でも。
その言葉に続く人はいなかった。
始まったばかり。
だからこそ分からない。
どれくらい続くのか。
いつ終わるのか。
終わる保証があるのか。
誰も知らない。
窓の外で花びらが流れる。
ずっと。
途切れずに。
「さ」
丹奈が無理やり笑う。
「暗い話やめよ」
誰も乗らない。
「……やめよ」
もう一回言う。
でも声が小さい。
菊音が膝を抱える。
いつもよりずっと小さく見えた。
「私」
ぽつりと言う。
「戦うの怖かった」
誰も笑わない。
当然だった。
「手、震えてた」
菊音は自分の手を見る。
「今も震えてる」
静かだった。
いつも真面目で。
しっかりしていて。
そんな菊音の口から出るとは思わなかった。
「私も」
朝佳が言う。
「私も怖かった」
「私も」
梅依。
「私も…」
雪羽。
一人が言うと。
止まらなかった。
紫陽だけは黙っていた。
窓の外を見ている。
桜子が聞く。
「紫陽は?」
少し間が空く。
紫陽は答える。
「怖いよ」
静かな声。
「でも」
そこで言葉が切れる。
「どうせ逃げられないし」
誰も何も言えなかった。
現実だったから。
逃げられない。
辞められない。
帰れない。
戦うしかない。
その事実だけが部屋の真ん中に置かれているみたいだった。
さっきまで笑っていたのに。
今は誰も笑っていない。
天界は綺麗だった。
花も。
空も。
庭も。
全部綺麗だった。
なのに。
どうしてこんなに息苦しいんだろう。
桜子は窓を見る。
花びらが流れている。
赤でも黒でもない。
ただの花びら。
それなのに。
なぜか少しだけ怖かった。




