揺れる花
部屋は静まり返っていた。
時計の音だけがやけに大きい。
誰もすぐには信じられなかった。
当然だった。
大事な愛娘が消えて。
突然集められて。
神様だの。
花組だの。
戦いだの。
そんな話を聞かされたのだから。
最初に口を開いたのは椿希の母だった。
「待ってください」
震えた声。
「そんな話……」
言葉が続かない。
信じたいわけじゃない。
でも。
否定する材料もなかった。
娘は消えた。
八人全員が。
同じ時間に。
同じ場所から。
祖母は机の花を見た。
「私も、昔は信じていませんでした」
静かな声。
「でも知っていたんです」
部屋の全員が顔を上げる。
「私の祖母から」
誰も喋らない。
祖母は続ける。
「私の祖母も、そのまた祖母も、この話を知っていました」
「代々、花祭りを守ってきた家だからです」
桜子の母が呆然と座り込む。
「じゃあ……」
小さな声だった。
「桜子は今どこにいるんですか」
祖母は少しだけ黙った。
それから答える。
「天界です」
誰も反応できなかった。
現実味がなさすぎた。
でも。
誰も笑わない。
笑える状況じゃなかった。
朝佳の父が机を見つめる。
並んだ花。
その中の朝顔。
小さな鉢に植えられたまま。
夜なのに花を開いている。
「この花が本人だって言うんですか」
祖母は頷く。
「はい」
「じゃあ傷ついたら?」
今度は梅依の母だった。
祖母は視線を落とす。
答えるまで少し時間があった。
「変化は現れます」
それだけ言った。
全部は言わない。
まだ。
今は。
蓮唯の母が、水鉢の蓮を見つめている。
「……帰ってくるんですよね」
誰に向けた言葉か分からない。
祖母は答えなかった。
答えられなかった。
その時だった。
「桜子のおばあさん!」
玄関が開く。
息を切らした少年が飛び込んでくる。
祭りの手伝いをしていた高校生だった。
「見つかったの?!」
誰かが立ち上がる。
少年は首を横に振った。
「違う」
息を整える。
「温室の花が、少し変なんです」
祖母の顔色が変わる。
「どういうことだい」
「見たことないくらい揺れてる」
部屋が静まる。
風なんてないはずだ。
温室は閉まっている。
祖母は立ち上がる。
「案内して」
夜道を急ぐ。
温室へ向かう。
親達も何人か後ろについてくる。
鍵を開ける。
扉を開く。
湿った空気が流れ出る。
そして全員が息を呑んだ。
花が揺れていた。
桜も。
椿も。
朝顔も。
蓮も。
雪柳も。
まるで見えない風が吹いているみたいに。
ゆっくり。
同じ方向へ。
「なに……これ」
誰かが呟く。
祖母は温室の中央へ進む。
花を見る。
枯れていない。
傷んでもいない。
むしろ。
少しだけ花の色が濃くなっているように見えた。
祖母は目を細める。
そして小さく息を吐く。
「生きてる」
誰にも聞こえないくらい小さな声だった。
けれど。
確信だけはあった。
どこにいるかは分からない。
何をしているかも分からない。
それでも。
あの子達は、今も戦っている。




