還る場所
しばらく、誰も喋らなかった。
風が吹くたび、花びらだけが動く。
丹奈が地面に座ったまま空を見る。
「……なんかさぁ」
ぽつりと零す。
「急に現実感きた」
誰も返さない。
でも多分、みんな同じことを思っていた。
戦ってる時は必死だった。
武器を持って。
亡き色を斬って。
逃げて。
叫んで。
考える余裕なんてなかった。
けど今は違う。
ここは静かすぎた。
静かだから、考えてしまう。
朝佳が膝を抱える。
「帰ったらどうなってるんだろ」
「祭り終わってるかもね」
雪羽が言う。
軽く言ったつもりだった。
でも空気は軽くならなかった。
「普通に捜索されてたりして」
椿希が石碑にもたれたまま呟く。
「神隠し扱いなんでしょ?」
サクヤヒメは否定しない。
桜子はその言葉を頭の中で反芻する。
神隠し。
昨日まで、自分には関係ない言葉だった。
それが今は、自分達の話になっている。
「……家族、心配してるかな」
梅依の声は小さかった。
誰もすぐ返せない。
柳羽が静かに口を開く。
「してると思う」
雪羽が珍しく何も言わなかった。
紫陽だけが、少し離れた場所で巨大な桜を見ていた。
その横顔は妙に落ち着いて見える。
桜子はなんとなく聞く。
「紫陽、怖くないの?」
紫陽は少し考えた。
「怖いよ」
意外なくらい普通の返事だった。
「でも」
そこで言葉を切る。
風が吹く。
青紫の髪が揺れる。
「今さら騒いでも変わらないし」
静かな声。
諦めとも違う。
ただ事実を言っている感じだった。
丹奈が苦笑する。
「そういうとこ強いよね」
「強くはない」
紫陽はすぐ否定した。
「慣れてるだけ」
その言葉に、少しだけ空気が止まる。
桜子は聞き返しかけてやめた。
なんとなく。
踏み込まない方がいい気がした。
その時。
ぐぅ、と音が鳴る。
全員がそっちを見る。
朝佳が顔を覆った。
「…最悪」
「朝佳お腹鳴った?」
雪羽が吹き出す。
「聞かないで」
「こんな空気で鳴ることあるんだ!」
丹奈まで笑い始める。
朝佳が本気で嫌そうな顔をした。
さっきまで張り詰めていた空気が、少しだけ緩む。
サクヤヒメがその様子を静かに見ていた。
「食事は用意できます」
「え」
椿希が反応する。
「天界ってご飯あるんだ〜」
「あります」
「急に生活感」
雪羽が笑う。
サクヤヒメは少し首を傾げた。
「食事は必要でしょう」
「いやまぁそうなんだけど」
丹奈が立ち上がる。
「なんかサクヤヒメって、神様のくせに妙に庶民感覚ある時あるよね」
「失礼ですね」
真顔だった。
数秒遅れて、みんな少し笑った。
その時だけは
白い石碑のことを、少し忘れられた




