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花の想ひ出  作者: 栖旅アヲ


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空白の石碑

誰も、その石碑から目を離せなかった。


真新しい白い石。


他の石碑みたいに名前もない。


花の模様もない。


ただ、そこに置かれているだけ。


「…やだなぁ」


最初に声を出したのは雪羽だった。


笑おうとしているのに、少し引きつっている。


「これ絶対私達のやつじゃん」


「縁起悪いこと言わないで」


朝佳がすぐ返す。


でも否定しきれていなかった。


丹奈が石碑を軽く蹴る。


「まだ何も書いてないし」


「フラグっぽいからやめて」


菊音が真顔で言った。


桜子はサクヤヒメを見る。


「これって……いつ彫られるの」


サクヤヒメは静かに白い石碑を見つめた。


「花組の記録が確定した時です」


「確定?」


梅依が首を傾げる。


「戦いの終わりです」


空気がまた重くなる。


“終わり”。


その言葉に、みんな少し敏感になっていた。


紫陽が石碑へ近づく。


指先で表面をなぞる。


冷たい。


「名前って誰が彫るの」


「自然に刻まれます」


「怖っ」


椿希が即答した。


「ホラー要素増やさないでほしいんだけど」


珍しく、少しだけ笑いが起きる。


でも長くは続かなかった。


柳羽がふと周囲を見る。


「……他の花組って、どんな人達だったの」


静かな質問だった。


サクヤヒメは少し考える。


「様々です」


「ふわっとしてるなぁ」


丹奈がぼやく。


「仲の悪い花組もありました」


「それはリアル」


雪羽が即答する。


「逆に、家族のように仲が良かった代もあります」


「へぇ」


朝佳が石碑を見る。


「みんな最初から戦えたの?」


「いいえ」


サクヤヒメは首を横に振る。


「泣く者もいました」


「逃げ出した者も」


「戦えなかった者もいます」


桜子は少しだけ安心した。


自分達だけじゃないんだと思えたから。


椿希が腕を組む。


「……じゃあさ」


「花組って途中で辞めたりできるの」


その質問で空気が止まる。


サクヤヒメは静かに答えた。


「できません」


即答だった。


「花組となった時点で、あなた達は天界と繋がります」


「亡き色を討つ役目から外れることはありません」


「え」


朝佳の顔が固まる。


雪羽も笑顔が消えた。


「じゃあ、一回なったら終わるまでずっと?」


「はい」


サクヤヒメは頷く。


静かな声だった。


「今の亡き色が基準まで減るか」


「花組が尽きるまで」


風が吹く。


桜の花びらが白い石碑へ落ちる。


誰も喋らなかった。


丹奈でさえ、何も言えない。


梅依は石碑を見たまま小さく聞く。


「……前の花組も、みんなそうだったの」


「はい」


「嫌だって言った人は?」


サクヤヒメは少しだけ目を伏せた。


「いました」


短い返事。


「ですが、役目は消えません」


静かな庭だった。


花は綺麗なのに。


白い石碑だけが、やけに冷たく見えた。

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