先代の花
空気が冷えた気がした。
石碑は何十個もあった。
大きさも形も少しずつ違う。
古いものほど文字が削れて読みにくい。
でも確かに名前が刻まれていた。
花の名前。
「……これ」
桜子が近づく。
指で石碑をなぞる。
「ほんとに前の花組なんだ」
サクヤヒメは静かに頷いた。
誰も軽口を言わなかった。
さっきまでの話と繋がってしまったから。
“何代も前から繰り返されている”。
その証拠が、目の前にある。
朝佳が小さく聞く。
「その人達が、亡き色を倒したんだよね?」
「はい」
「じゃあ何でまた出てくるの」
今度は椿希だった。
少し苛立った声。
「前の花組が倒したんじゃないの?」
サクヤヒメは巨大な桜を見上げる。
風が吹く。
花びらが舞う。
「亡き色は、人が生き続ける限り増え続けます」
静かな声だった。
「悲しみ」
「苦しみ」
「未練」
「憎しみ」
「そういった感情は尽きません」
誰も喋らない。
「亡き色は完全には消えないのです」
桜子が石碑を見る。
じゃあ。
この人達も。
終わらせられなかったってことだ。
サクヤヒメは続ける。
「そこで、大体二百年に一度」
「花組に亡き色を減らしてもらうのです」
「減らす?」
丹奈が眉をひそめる。
「倒すじゃなくて?」
「完全な消滅は不可能です」
あまりにも自然に言われた。
まるで。
雨は止まない、くらい当然みたいに。
「だから繰り返すんだ」
紫陽がぽつりと呟く。
サクヤヒメは頷く。
「亡き色が増えすぎる前に、花組が現れる」
「そして亡き色を減らす」
「再び増える」
「また花組が現れる」
静かだった。
でもその説明は、妙に完成されていた。
ずっと昔から続いている仕組みみたいに。
雪羽が少し嫌そうに笑う。
「なにそれ」
「バグ修正みたい」
「ほんとに」
柳羽も小さく呟く。
椿希は石碑を見たまま言う。
「……じゃあさ」
低い声。
「前の花組って、どうなったの」
風が吹く。
花びらが舞う。
サクヤヒメは少しだけ黙った。
その沈黙だけで、なんとなく察してしまう。
「役目を終えた後、現世へ戻った者もいます」
“も”。
その言葉に、全員が反応した。
桜子がゆっくり振り返る。
「……戻らなかった人もいるの」
サクヤヒメは否定しなかった。




